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「奥様は高野宮家を知らなさすぎるわ。普通の十六歳の娘が、この家を仕切るなんて無理よ」
「萌華さんが十六になるのを待って、結婚するんだろうと思っていたけど、まさか他の方を妻に選ぶなんてねぇ……」
戸口の向こうでは、高野宮家の事情を知っている萌華さんのほうが、旦那様の妻にふさわしいと言われていた。
帝都を守る『戦神』とは、怨霊と戦える特殊な力を持ち、軍に所属する軍人である。
そして、戦神は半分が神で半分が人――私が知っているのは、それくらいだった。
「それにしても旦那様はご立派だよ。祝言がまだとはいえ、旦那様は奥様をちゃんと気にかけていらっしゃる。奥様が来る前に、お部屋と身の回りのものをご用意するよう命じたのは旦那様だからね」
「あの時は萌華さんがイライラして大変だったわ」
ここへ来た日に、高野宮家当主の奥様として広い部屋を与えられ、新しい着物もいただいた。
でもそれが私のために旦那様が用意してくれたものだと、まったく知らなかった。
手元が忙しくなってきたのか、話し声が止んだ。
静かになったのを見計らって台所へ入る。
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