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私が台所に顔を出すと、さっきまで私のことを話していたからか、どこか気まずい空気が流れた。
「お義母様に頼まれた向こうの仕事が終わりましたので、夕食のお膳を運びます」
「まあ、奥様。手伝いはけっこうです!」
「でも、なにか……」
私が手を出そうとしたのを一番古い女中が見咎めた。
「奥様は夕食を召し上がってください。こちらの仕事は台所を任された女中たちの仕事です」
「は、はい。申し訳ありません」
昔から高野宮家に勤めているという女中頭は、結い上げた髪にほつれ一つなく、着物の首元をきつく締め、シャンとしていて、姿勢がいい。
お義母様であっても、女中頭には強く言えず、遠慮している部分がある。
「こちらどうぞ。奥様のお食事をご用意します」
土間から上がった囲炉裏のそばに私の食事を用意する。
食事はお義母様と萌華さんと同じもので、私には贅沢なくらいだった。
「お一人で食事をとられて、寂しくないのかねぇ」
「大奥様と萌華さんが別々でないと嫌だとおっしゃるから……」
一人で食事をするのは慣れている。
早くに両親を亡くした私は、いつも一人だった。
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