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若い女中一人で、この繕い物の山を縫い終えるのは困難だ。
「繕い物はアタシの仕事です。それに奥様は大奥様のおつかいで、何度も家と店の往復をされてお疲れでしょう?」
さっきまで泣いていたのか、目が赤くなっていた。
十深子さんは漁村から奉公へやってきた娘さんで、幼い弟妹を学校に通わせるため、ここで働いている。
まだ田舎から出てきたばかりで、家族が恋しくなり、泣いている姿を何度か目にしたため、気になっていた。
「い、いえっ! 奥様! そのっ……」
「これ……」
まだ新しい着物は破れ、ボロボロにされていた。
「そちらの着物は、奥様がまだ袖を通していない着物です。お部屋へお持ちする前に、萌華さんに奪われてしまって……」
萌華さんの私への悪意が感じられた。
「申し訳ありません。奥様にお見せしないよう女中頭から言われておりました」
ボロボロにされてしまったけれど、私が今まで着たこともないような立派な着物で、とても高価な品であることがわかる。
旦那様の耳に入り、怒りを買いたくないからか、うまく萌華さんとお義母様がやったことを隠そうと、使用人たちは必死だった。
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