1 まだ見ぬ私の旦那様

12/14

796人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 今までも旦那様に告げ口した使用人は、私のように嫌がらせをされ、辞めていったそうだ。  それを考えたら、私と積極的に関わりたいと思う人がいないのは当然で、十深子さんにしても、ここを辞めさせられたら、田舎に仕送りができなくなってしまう。 「十深子さん。この着物と旦那様のものは私が繕います」 「奥様……」 「女中頭に伝えてください。旦那様がご用意してくださった私の着物を受け取ったと」 「はい!」    十深子さんにようやく笑顔が戻った。  私と十深子さんは微笑んだ。 「十深子さん。早く夕食へ行かないと、食事が終わってしまいますよ?」 「そうですよね! あのっ! 奥様、ありがとうございます!」  十深子さんは涙をぬぐい、台所へ走っていった。  私は縫い物が入った木の籠を抱え、自分の部屋へ向かう。  旦那様が用意してくれた私の部屋は、お義母様も萌華さんも口出しできなかったようで、とても立派で美しかった。  二人の部屋から一番遠いこともあって、部屋に戻るとほっとする。  棚から裁縫箱を取り出して、繕い物を広げた。  旦那様の繕い物を私が毎日していると、お義母様も萌華様も知らない。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

796人が本棚に入れています
本棚に追加