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だから、これは私が旦那様と関わることができる唯一のものでもあった。
大きな旦那様の軍服を広げ、じっと見つめる。
――私よりずっと体が大きくて、背も高い人。
軍服にはいくつもポケットがある。
「お返事がありますように」
実は昨日、旦那様のコートのポケットに、手紙とちりめんで作った貝の根付をこっそり忍ばせた。
十深子さんに教わり、繕い物の合間に一緒に作った貝の根付。
その根付には意味がある。
『貝はぴったり二枚対で合わさるから、縁結びにいいんですよ。それに貝の根付は魔除けにもなるって言われてるんです』
――旦那様に伝わればいいと思ったけれど、受け取ってもらえたかどうかわからない。
お義母様と萌華さんに逆らって、旦那様に会う勇気がない私が考えた手段は、手紙だった。
なぜ、私が旦那様の妻として選ばれたのか知りたい。
多くは望まないから、せめて手紙の返事だでも――ポケットのひとつに紙の感触があった。
「旦那様からのお返事……?」
たたまれていた白い紙片を慌てて広げた。
紙片に書かれていたのは、たった一言だけ。
けれど、その一言でじゅうぶんだった。
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