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お兄様が選んだ女性だというから、どんな美女がやってくるのかと思って身構えていたら、嫁いできたのは、七々原冬雪という地味で暗い女だった。
それも私と同じ十六歳。
――知り合いとは限らない。優しいお兄様のこと。怨霊に両親を殺された可哀想な娘がいると知って、同情で妻にしたのかも。
「お兄様は優しすぎるのよ」
私のお母様は元芸者で、高野宮家に後妻で入った時は親戚筋からの嫌がらせが尽きなかった。
その嫌がらせから私を庇い、親切にしてくれたのはお兄様だけだった。
大切な私のお兄様――冬雪なんかに渡すものですか!
「絶対に離縁させて、この高野宮家から追い出してやるわ!」
今日一日、冬雪はお母様から散々痛めつけられていたから、今頃、部屋で泣いているはず。
追い打ちをかけてやろうと、冬雪の部屋を覗く。
フリルガラスの電気スタンドの灯りの下で、冬雪は眠っていた。
「なによ。眠ってるなら、私が来た意味がないじゃないの」
起こしてやろうかしら――そう思っていると、冬雪の手元に紙片があるのが見えた。
「手紙?」
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