796人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
冬雪は身寄りがないと聞いている。
実家の七々原家から、いまだ一通の手紙もなければ、どうしているかという話すらされたことがない。
七々原家では、実子の一人娘を差し置いて、使用人同然の冬雪が格上の高野宮家へ嫁ぎ、腹を立てているというから手紙を送るわけがない。
冬雪は女学校へ通っていたけれど、七々原家のお嬢様の世話係で、学友一人作れなかったそうだし、親しい人なんて誰もいないはずだ。
だから、その手紙主を見てやろうと思った。
よほど大切な手紙なのか、お守りのように握りしめていた。
起こさないように、そっと冬雪の手の中から紙片を抜く。
「なにこれ……」
手紙には、お兄様の文字で『今度の休みに花嫁衣裳を選びに行こう』と書かれてあった。
私がお兄様の文字を見間違えるわけがない。
小賢しい冬雪が、私とお母様の目を盗み、手紙をお兄様に送っていたなんて少しも気づかなかった。
気づかない私とお母様を陰で馬鹿にしていたかと思うと、怒りで体が震えるのがわかった。
――ああ、そういうことなの。お兄様は誰も知らないところで、冬雪とやり取りをしていたってわけね。
最初のコメントを投稿しよう!