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思えば、お兄様が冬雪を妻として迎えるために準備した品々は、冬雪がなにも持参できないとわかっていたから、揃えられたものだった。
私が知らないところで、親しくなっていたお兄様と冬雪。
今日、お兄様が家に帰ってきたら冬雪と会って話をし、部屋を同じにして夫婦として暮らす――そんなの耐えられる?
お兄様が私以上に冬雪を大事にする姿を毎日見るなんて、私には絶対できない。
足は自然と玄関へ向かっていた。
夜の闇が深まっても、お兄様はまだ戻らない。
家の門の前には冬雪の名前が書いた提灯が飾られ、闇の中で煌々とろうそくの火が燃えている。
夕暮れでは、明るく見えなかった提灯の火も今は明るく周辺を照らす。
――今頃、お兄様は冬雪の名が書かれた灯りを頼りに、こちら側へ戻ってきているのでしょうね。
戦神は怨霊と異界で戦い、日が暮れる頃、異界から現世へ帰ってくる。
そのために必要なのが、この提灯だと聞いている。
――冬雪との結婚を分家が反対しなかったのは、この特別な力を持っていたから。
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