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私とお母様が高野宮家に入った時は、害虫か塵芥のように扱われたのに、冬雪に対しては違っていた。
憎たらしい――そう思ったら、大切なはずの提灯が呪われた品のように思え、『壊せ』と頭の中で誰かが命じた。
気づけば、私の手は提灯の吊り具に伸びていた。
吊り具から提灯を外し、地面へ叩きつける。
冬雪が灯した火は消え、真っ暗な闇が広がった。
その闇が今の私には心地いい。
暗闇の中、何度も冬雪の名が書かれた提灯を踏みつけて笑った。
提灯の和紙が泥にまみれ、中の骨が折れ、銀の吊り具が千切れる――これで、冬雪は火を灯せず、お兄様の特別ではなくなった。
「お兄様、帰ってこないで」
帰ってこなければ、お兄様は冬雪と結婚できないし、二人が仲睦まじく暮らす姿も見なくてすむ。
それだけじゃない。
お兄様が将来、私を愛する可能性も残されている。
――ねえ、冬雪。知っている?
異界に閉じ込められた戦神は、人ではない獣の性を強め、やがて本当の獣になってしまうという。
人だった頃の記憶をすべて忘れて。
「お兄様が化け物になっても私だけは愛してあげる」
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