3 戻らない旦那様

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「……様が! 蒼也(そうや)様はお戻りではないのですか!?」  ――なんだか玄関のあたりが騒がしい。  昨晩、旦那様からの手紙を読み、あのまま寝入ってしまったようで、気づけば夜が明けていた。  着物を着換え、旦那様の手紙を胸元にそっと差し込んだ。  部屋を出ると、少し強い春の風が桜の花を散らし、縁側に白い花弁を連れてくる。  心なしか昨日よりも日差しが暖かく感じた。  旦那様からいただいた手紙が嬉しくて、気持ちが舞い上がっているせいかもしれない。 「いつもより少し遅くなってしまったわ」  女中たちは気にしないけれど、お義母様は違う。  割烹着を手にして急ぎ足で台所へ向かう。  台所ではすでに朝食の準備が始まっているはず――そう思っていたけれど、使用人たちは廊下に集まっており、台所までたどり着けなかった。 「朝食の準備中では……?」  集まった人々の視線は玄関へ向いている。  なにか大変なことが起きたのか、落ち着かない様子だった。  私の姿をいち早く見つけたのは十深子(とみこ)さんで、青い顔をして私の元へ駆け寄ってきた。 「お、奥様、逃げてください!」
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