3 戻らない旦那様

3/10

797人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
「逃げる? どうして逃げるの……」 「どきなさい!」    お義母様が十深子さんを突き飛ばし、十深子さんの痩せて細い体が転がった。  他の使用人たちが『ひっ』と小さく悲鳴をあげ、十深子さんの肩を支え、抱き起した。 「こ、こっちにきなさい。早く!」 「馬鹿ね。奥様をかばったら、あんたも同罪にされるわよ!」  ――同罪?  目の前には怖い顔をしたお義母様と高野宮(たかのみや)の親族が立ち塞がり、私をにらみつけている。 「おはようございます。いったいなにが……」  言い終わる前に、パンッと乾いた音が響き、私の頬に強い痛みが走った。  廊下の壁に肩をぶつけ、床に手をついた瞬間、お義母様に叩かれたことに気づいた。  ――私に怒っている。それも、お義母様だけでなく、高野宮の親族全員が、私に敵意を向けている。 「冬雪(ふゆ)。昨晩、提灯に火を灯さなかったわね?」 「え……? 提灯……? 私が提灯に火を灯すのをお義母様と萌華(ほのか)さんが見ていたはずですが……」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

797人が本棚に入れています
本棚に追加