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「逃げる? どうして逃げるの……」
「どきなさい!」
お義母様が十深子さんを突き飛ばし、十深子さんの痩せて細い体が転がった。
他の使用人たちが『ひっ』と小さく悲鳴をあげ、十深子さんの肩を支え、抱き起した。
「こ、こっちにきなさい。早く!」
「馬鹿ね。奥様をかばったら、あんたも同罪にされるわよ!」
――同罪?
目の前には怖い顔をしたお義母様と高野宮の親族が立ち塞がり、私をにらみつけている。
「おはようございます。いったいなにが……」
言い終わる前に、パンッと乾いた音が響き、私の頬に強い痛みが走った。
廊下の壁に肩をぶつけ、床に手をついた瞬間、お義母様に叩かれたことに気づいた。
――私に怒っている。それも、お義母様だけでなく、高野宮の親族全員が、私に敵意を向けている。
「冬雪。昨晩、提灯に火を灯さなかったわね?」
「え……? 提灯……? 私が提灯に火を灯すのをお義母様と萌華さんが見ていたはずですが……」
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