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「それは無理だ。異界に入れるのは人ではない戦神だけだ」
冷ややかな目と声――その場にいた軍服姿の人が、私の問いに答えた。
旦那様が行方不明になったからか、一人だけでなく、何人もの軍人が駆けつけていた。
美しい外見から、彼らが旦那様と同じ戦神なのだとわかった。
「異界……?」
「火守り姫だというのに、なにも知らないのか? おい。なぜ教えていない?」
長い黒髪に切れ長の目をした男の人は、高野宮の親族とお義母様をじろりとにらんだ。
「火守り姫に知識を与え、教育するのは戦神を支える一族の務め。天狐の一族は役目を怠ったようだな」
「も、申し訳ありません。その娘は物覚えが悪く、なかなか……」
「言い訳はいい。高野宮蒼也を失ったのは軍としても痛手。戻らぬことがわかった以上、今後の対応を考える必要がある」
怒りを抑えた低い声に、さきほどまで騒いでいた高野宮の人々は、水を打ったように静まり返った。
重い空気の中、会話を続けたのは【戦神】だけだった。
「おーい、大佐。壊された提灯の調査はどうすんの?」
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