3 戻らない旦那様

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 旦那様がいなくなったのに、誰も旦那様の話をせず、もう戻らないと諦めて、自分たちのことしか頭にない。    ――そんな……。旦那様はもうお戻りにならないの?  私だけ事情がわからず、ただ呆然とするばかりで、お義母様たちがなにを話しているかわからなかった。  ――火守り姫とはなに? 異界ってどこにあるの?  混乱する頭の中でわかるのは、『旦那様が戻らない』ということだけ。 「あら、まだいたの?」  旦那様がいなくなったため、今、この高野宮家を取り仕切るのはお義母様と分家の当主たちだった。 「さっさと出ていけ!」 「高野宮家の顔に泥を塗った悪妻め」 「もうお前に価値はない!」  罵声を浴びせられる私をお義母様は笑いながら眺めていた。  この先、高野宮家は萌華さんに夫を迎え、お義母様が仕切っていく――その未来に私は不要な存在だった。 「お世話に……なりました……」  泣きたい気持ちをこらえ、深く頭を下げた私を引き止めてくれる人は誰もいなかった。 「そうだわ。冬雪が高野宮家の物を持ち出さないように荷造りを見張りなさい。お金に変えようとして、金目の物を盗むかもしれないわ」
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