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部屋へ戻ろうとした私を見て、お義母様が女中に命じた。
「私は泥棒なんてしません」
「泥棒でしょ。私からお兄様を奪った泥棒猫」
萌華さんは憎しみを込めた目で私を見る。
「どうして、私がお兄様以外の人と結婚しなくちゃいけないのよ! 冬雪が高野宮にこなければ、幸せでいられたのに!」
――みんなが不幸になるのは私のせい。
私がいなかったら、旦那は萌華さんと結婚し、お義母様と対立することなく、平和に暮らせた。
両親は怨霊に殺され、引き取られた先の七々原家では厄介者。
私の存在は――
「冬雪さん、こちらへ。荷造りをするのでしょう?」
固まっていた私に気づき、女中頭が近づくと、私の背中を軽く押して部屋のほうへ戻るよう促した。
「平気ですか? 真っ青ですよ」
黙ってうなずいた。
なにを優先して考えればいいかわからなくなっていた。
自分の価値、旦那様の行方、これからの生活――そして、壊された提灯の意味と火守り姫、異界。
私に説明してくれる人は誰もいなかった。
高野宮を去る私に許されるのは、黙って出ていくことだけ。
私が高野宮に家から持ち出しを許可されたのは、七々原家から持ってきた私物だけで、旦那様からいただいた着物も小物もすべて奪われた。
私の手元には、なにひとつ残らなかった。
胸元に隠した旦那様からの手紙を除いては――
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