4 離縁された妻の決意

3/13

798人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 私には泊まるお金もなければ、雨露をしのぐ場所もなかった。  何件か住み込みの募集をあたってみたけれど、紹介状も知り合いのツテもない十六歳の娘では、警戒する人がほとんどで、家出娘かワケありな人間だと思われて門前払いされてしまった。  春の夜の冷たい空気が頬をなでてゆき、涙がにじんだ。  ――火守(ひも)り姫ってなに? 異界はどこにあるの?   旦那様の手紙がある胸元に触れ、うつむいた。 「自分のことなのに知らないことばかり……」  私の目から涙がこぼれ落ちた。 「どうしたの? 大丈夫?」  優しい声がして顔をあげた。  顔をあげた先に、ほんのり優しい灯りが見え、私を照らす。 「提灯……」  無意識に私は提灯の灯りの下に立っていた。  提灯には『扇屋(おうぎや)』と書かれている。  照らされた自分の顔に気づき、泣き顔を見られたくなくて、慌てて涙をぬぐった。 「大変! 頬が赤くなってるわ」  白い割烹着姿の女性は、私の赤くなった頬にそっと触れた。  ひんやりした指が心地よく、ぼうっとなった。  ――お母さんみたい。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

798人が本棚に入れています
本棚に追加