1 まだ見ぬ私の旦那様

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 ――まだ見ぬ私の旦那様。  大正の世、親が決めた相手と結婚するのは当たり前で、祝言の当日まで、お互いの顔を知らないという話はよく聞く。  でも、私の場合は、少しそれとは違っているような気がしていた。  これが初めての結婚だから、なにと比べればいいのかわからないけれど、旦那様と一度も顔を会わせていないという事実。  それだけでなく、祝言もまだ挙げておらず、部屋も別々であることを考えたら、やっぱりこの結婚は普通ではない気がする。  旦那様は軍の仕事で忙しく、滅多にお屋敷内にいないというのもあるけれど、他に好きな人がいて、私とは結婚生活を送るつもりはないとか……あり得ない話ではない。  会えないせいか、嫌な想像ばかりしてしまう。  ――今日も旦那様に会えないまま、一日が終わっていく。  蜜柑色に染まる夕暮れの空に、大きな鳥が一羽、山にいる家族の元へ帰っていく。  真っ直ぐ迷わずに。  ――私も帰っていけたらいいのに。でも、どこへ?   私には『帰っておいで』と言ってくれるような人はいない。  夕暮れ時は心細い気持ちがよりいっそう強くなる――  
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