4 離縁された妻の決意

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幾久子(いくこ)。俺の名前はシロじゃなくて志郎(しろう)」 「私を呼び捨てにしないのっ!」  さっきままで感じていた威圧感が綺麗に消え去り、志郎さんは悲しげな目を幾久子さんに向けた。 「志郎がごめんね。怖かったでしょ? 図体ばかり大きくなって困るのよ。彼は柊木(ひいらぎ)志郎(しろう)。けっこう有名な玄狐(げんこ)の戦神だけど、知らないかしら?」 「げんこ……?」  不思議そうな顔をした私に気づき、幾久子さんは教えてくれた。 「星の化身であると言われる黒い狐のことよ。志郎は玄狐と人の半神で、階級は少尉。候補生を卒業して戦神になったばかりの十八歳。高野宮大尉と同じ部隊にいるの」 「幾久子は俺より二個上の二十歳」 「私の年齢は言わなくていいのよ!」  行方不明になった旦那様と一緒に行動していた人。  私が志郎さんに目をやると、志郎さんは色素の薄い茶色の瞳を少しだけ伏せた。 「幾久子。彼女は高野宮の火守り姫だよ」 「えっ……!? それじゃあ、彼女が高野宮大尉の奥様? 異界で行方不明になったっていう……。もしかして、その頬は……」
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