4 離縁された妻の決意

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 旦那様が異界で行方不明になったことを幾久子さんはすでに知っていた。  そして、私の様子から、高野宮家でなにがあったか、すべて察したようだった。  ――夫を守れず、高野宮家から追い出され、縁を切られた妻。  そう思われているだろう。  気まずい空気が流れた。  けれど、その空気は長く続かず、志郎さんが気まずさを打ち消した。 「彼女の名前は七々原(ななはら)冬雪(ふゆ)。今年で十六歳。七々原男爵の家から嫁いだ。軍の資料から抜粋」 「柊木少尉! 軍の機密を勝手に話しちゃ駄目ですって!」 「まずいですよ~!」  自分より年少の人にから注意されても志郎さんはまったく気にしてない。 「シロ! 軍の資料に書いてあることを教えちゃ駄目でしょ! それに彼女は高野宮大尉と結婚したんだから、高野宮冬雪さんと呼ぶべきよ」 「本日付けで高野宮家から離縁届けが出されたから、七々原で間違ってない」  ――離縁届けが出された?  志郎さんに詳しく聞きたいと思っても、『妻でなくなったのですか?』と声に出して言えなかった。  向き合えない辛い現実に足元がぐらつく。
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