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志郎さんの話を聞いて、幾久子さんはあまりにひどいと憤慨した。
「いつか戻ってくるかもしれないじゃない! いくら戦神の特例とはいえ、妻に了承もなく、婚家が勝手に離縁していいと思ってるの!?」
「異界で行方不明になった戦神が現世へ戻ってこれた例はない。気持ちに踏ん切りがつかない残された人々のための特例だよ」
「でも、可能性はあるでしょ?」
「そうだね。米粒くらい……砂粒?」
幾久子さんは顔を赤くして、志郎さんに怒鳴った。
「志郎の馬鹿!」
「俺に怒っても。戻らない戦神の婚約者や夫を待ち続け、死ぬまで婚家に縛りつけられるよりいいと思うけど」
戦神が異界から戻らなかったり、怨霊との戦いの中で亡くなる可能性を考え、特別な法律があるということらしい。
だから、旦那様が行方不明になったと軍が認めたなら離縁できる――私が望まなくても。
「あ、あのね、志郎は悪気があって言ってるんじゃないの。ただ嘘がつけないだけなのよ」
「いいえ……。私にいろいろ教えてくださり、ありがとうございました」
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