5 火守りの姫

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「この橋から、異界の奥へ向かっていく」  志郎さんが指さした向こうには道が続いていた。 「ここが異界ですか?」 「そうだよ。一番浅い場所が一の橋。戦神候補生が最初に来るところだ」 「異界というより、深海にいるみたいです」 「わかる。俺も最初はそう思った。昼になると太陽の光で、もう少し明るくなる。だから、一の橋はひふみで数え、()の橋とも呼ぶ」  赤い色に塗られた日の橋――ここが一番明るい場所と言われても、現世(うつしよ)の夜より暗い。  暗い世界から現世を見上げると、提灯の火、道行く人々、扇屋で待つ人、向こう側の世界で生活する風景がはっきり見えた。 「あちら側が見えます」 「見えるけど、君の提灯を見ていたのは蒼也だけだ。だから、提灯を壊した犯人を知っているのは蒼也しかいない」  ――高野宮家の人々は誰も証言してくれなかったのだ。    そう思うと、胸がきゅっと苦しくなった。 「だから、蒼也が戻れば犯人も捕まる。ただし、獣でなく人の姿で、記憶を忘れずにいればの話だけど」 「はい」
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