5 火守りの姫

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「年齢なんか関係ない。戦神にとって火守り姫はいくつになっても姫だよ」  私と志郎さんは、幾久子さんの名前が書かれた提灯を仰いだ。  あたたかい色をした提灯の火をいつまでも眺めていられるような気がした。 「世間では半神と言われてるけど、俺たちは異界に来れば獣だ。化け物だよ」  志郎さんの茶色の髪が黒く染まっていく。  瞳も黒に変化し、異界に来たことで玄狐(げんこ)の姿に近づいたのだとわかった。 「志郎さん……」 「俺は自分を神様だなんて思ったことない。火守り姫の火がなかったら、人間だったことを忘れ、命が尽きるまで、異界の暗闇の中で怨霊と戦うだけの獣と化す」  志郎さんは私に旦那様を待っていてほしいけど、待っていてほしくない気持ちもあるのだとわかった。  旦那様が私を忘れ、人でなくなっていると志郎さんは思ってる。  きっと志郎さんだけでなく、戦神は同じように―― 「火守り姫には幸せになってほしい。俺たちが獣にならないよう火を灯し続けてくれる大切な存在だから」 「そう思っていただけるよう旦那様と再会する日まで、私は火守り姫として学んでいこうと思います」 「頑固だ」
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