797人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
この仕事は、私が嫁いだ日から毎日、黄昏時にやるよう命じられていた。
私が嫁ぐまでは、旦那様の祖母にあたる方がされていたそうで、その仕事を私が引き継いだ。
――提灯には、火を灯す人間の名前を書くしきたりだと説明されたけど、どうして名字の『高野宮』ではなく、私の名前を書くのかしら?
玄関に飾るのであれば、苗字の方が色々と都合がいいのではないだろうか。
私の名――それも自分の手で書いた文字でなければならない。
夕暮れの光に似たろうそくの火色が郷愁を誘う。
旦那様が目にしたら、ホッとするような灯り――そうであってほしいと願っているけれど、その気持ちは伝わっているだろうか。
忙しい旦那様が帰るのは、いつも日が暮れてからで、提灯を必ず目にする。
『冬雪』という妻の名を毎日見ているはずで、私を忘れようがないのに――
「お母様、また冬雪が怠けていたの?」
「そうなのよ。誰も見てないと思って怠けて困るわ」
「本当に駄目な嫁ね。お兄様の妻失格よ!」
私がお義母様に叱られていた声が聞こえていたらしく、義妹の萌華さんがやってきた。
最初のコメントを投稿しよう!