1 まだ見ぬ私の旦那様

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 この仕事は、私が嫁いだ日から毎日、黄昏時(たそがれどき)にやるよう命じられていた。  私が嫁ぐまでは、旦那様の祖母にあたる方がされていたそうで、その仕事を私が引き継いだ。  ――提灯には、火を灯す人間の名前を書くしきたりだと説明されたけど、どうして名字の『高野宮(たかのみや)』ではなく、私の名前を書くのかしら?  玄関に飾るのであれば、苗字の方が色々と都合がいいのではないだろうか。  私の名――それも自分の手で書いた文字でなければならない。  夕暮れの光に似たろうそくの火色が郷愁を誘う。  旦那様が目にしたら、ホッとするような灯り――そうであってほしいと願っているけれど、その気持ちは伝わっているだろうか。  忙しい旦那様が帰るのは、いつも日が暮れてからで、提灯を必ず目にする。 『冬雪』という妻の名を毎日見ているはずで、私を忘れようがないのに―― 「お母様、また冬雪(ふゆ)が怠けていたの?」 「そうなのよ。誰も見てないと思って怠けて困るわ」 「本当に駄目な嫁ね。お兄様の妻失格よ!」  私がお義母様に叱られていた声が聞こえていたらしく、義妹の萌華(ほのか)さんがやってきた。
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