6 戦神たちの仮宿『扇屋』

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「すぐに帰ってくると思ったら、倒れるまでいるなんてとんでもないわ」 「異界の説明をしていたら長くなった」  志郎さんは正座したまま、幾久子さんに言い訳をしたけど、ますます怒らせただけだった。 「なにかあったら、長くなったじゃすまないっ……」  幾久子さんが怒鳴りかけた時、どたどたと廊下を走る音がいくつも聞こえた。 「幾久子さん、お昼ご飯にしようよ~!」 「柊木(ひいらぎ)少尉とイチャイチャしてるとこ悪いんだけどさ。腹が減って死にそうなんだって!」 「お皿並べました! いつでもお昼にできます!」  志郎さんより年下の戦神候補生たちが騒ぎだして、幾久子さんがハッと我に返った。 「もうお昼だったわね。見ての通り食事時間は戦場よ! 特に育ち盛りの戦神候補生たちのご飯は大量に用意してもすぐになくなっちゃうの。だから、冬雪ちゃんが手伝ってくれると助かるわ」 「それって……」 「採用!」  ちょんっと私の鼻を幾久子さんは指でつついて微笑んだ。 「幾久子さん。ありがとうございます」 「お礼を言うのはこちらのほうよ」  幾久子さんは頬に手をあて、ため息をついた。
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