6 戦神たちの仮宿『扇屋』

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「戦神の下宿屋は軍からお金と支給品がもらえる。だから、食事に牛肉もでる。ライスカレーに入ってる牛肉みたいな細切れじゃなくて、しっかり形のやつが」 「しっかり……ビフテキですか?」  切った牛肉に塩コショウをふりかけて焼き、最後に鍋に残った肉汁でソースを作るという料理で、とても贅沢な一品だ。 「それだよ」  志郎さんは牛肉が好きなのだと、表情でわかる。  牛肉は高価で、そうそう口にできない。 「作れる?」 「はい。七々原の家では作っていました」  私がなぜ洋食に詳しいかというと、七々原(ななはら)男爵家ではコックを雇っていたため、教えてもらい何度か作ったことがある。  高野宮家は和食中心だったけれど、七々原家は洋食を好み、オムレツ、ポークカツレツなどが献立の定番として食卓にのぼるのが日常だった。   「今度こそ本格的なカレーのはずよ。冬雪ちゃんもお腹が空いたでしょ? おかわり自由だから、たくさん食べて」 「気をつけて。幾久子の和食は美味しいけど、洋食は冒険だから」 「冒険……?」  広い座敷に入ると、そこには皿とスプーンが用意され、かぶせ蓋のおひつがいくつも並んでいた。
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