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「戦神の下宿屋は軍からお金と支給品がもらえる。だから、食事に牛肉もでる。ライスカレーに入ってる牛肉みたいな細切れじゃなくて、しっかり形のやつが」
「しっかり……ビフテキですか?」
切った牛肉に塩コショウをふりかけて焼き、最後に鍋に残った肉汁でソースを作るという料理で、とても贅沢な一品だ。
「それだよ」
志郎さんは牛肉が好きなのだと、表情でわかる。
牛肉は高価で、そうそう口にできない。
「作れる?」
「はい。七々原の家では作っていました」
私がなぜ洋食に詳しいかというと、七々原男爵家ではコックを雇っていたため、教えてもらい何度か作ったことがある。
高野宮家は和食中心だったけれど、七々原家は洋食を好み、オムレツ、ポークカツレツなどが献立の定番として食卓にのぼるのが日常だった。
「今度こそ本格的なカレーのはずよ。冬雪ちゃんもお腹が空いたでしょ? おかわり自由だから、たくさん食べて」
「気をつけて。幾久子の和食は美味しいけど、洋食は冒険だから」
「冒険……?」
広い座敷に入ると、そこには皿とスプーンが用意され、かぶせ蓋のおひつがいくつも並んでいた。
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