6 戦神たちの仮宿『扇屋』

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「今日は訓練で異界にいたからなぁ」 「人の姿だと腹が減るんだって!」  候補生たちの声が聞こえてくる。  ――人の姿だと?   まるで異界では別の姿になれるような言い方だった。  カレーのスプーンを手に取り、いい香りがするカレーを口にした。 「……っ!?」 「はい、水」  志郎さんが準備してあった水を渡してくれた。 「脳天に突き抜けるくらいの辛さ」  表情がまったく変わってないから、志郎さんは辛くないのかと思っていたけど、青菜のおひたしが減っていってるのを見ると、どうやら辛いらしい。 「これくらい辛いほうが美味しいかと思ったけど、辛すぎちゃった?」 「俺はこれくらいが好きかなぁ」 「僕も~」  辛さには好みがあるからしかたがない。 「うるさいでしょ。戦神って呼ばれていても、中身は普通の人と変わらないのよ」    幾久子さんは困ったように笑う。 「いいえ。にぎやかなほうが、なんだか安心します」 「よかった。それなら、大丈夫ね。みんな、食事中だと思うけど、ちょっと話を聞いてほしいの」  遠慮がちにこちらを見ていた戦神候補生たちが、食事の手を止めた。
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