6 戦神たちの仮宿『扇屋』

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「今日から住み込みで働くことになった七々原(ななはら)冬雪(ふゆ)ちゃん。迷惑をかけないよう行儀よく、礼儀正しく接してね!」 「りょうかーい! よろしく!」 「可愛い子は大歓迎だってば~!」 「いつ、紹介してくれるかと思って待ってたよ」  仲良くしてねとかではなく、迷惑をかけないようにと言った幾久子さんの苦労が偲ばれる。 「これからよろしくお願いします」  深々とお辞儀をし、顔を上げた。  いままでとは違うあたたかい空気を感じた。   「よかったね」  志郎さんが私に微笑んだ。 「はい」  けれど、志郎さんの微笑みは続かなかった。  扇屋の玄関の戸がを乱暴に開ける音がして、志郎さんの微笑みが消えた。 「志郎! 志郎はいるか?」 「ここだよ。千璃(せんり)」  座敷に入ってきたのは、がっしりした体躯の赤茶色の髪をした男性で、志郎さんと同じくらいの年齢に見える。  彼を見て候補生たちは姿勢を正し、正座をする。 「どうだった?」 「高野宮大尉の姿はどこにもない。大佐とともに異界の奥まで入ったが、それ以上は危険だと判断し、戻ってきた」 「そうか……」
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