6 戦神たちの仮宿『扇屋』

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 ――旦那様は見つからなかった。  あの暗い世界で旦那様は一人でいるかと思うと、自分の無力さが辛い。 「奥からこちらへ戻るには、よほどの執念がないと……って、この女性は……」 「蒼也の奥さん」 「志郎。高野宮大尉と呼べ。お前は本当に礼儀がなってないな! そんなんじゃ、幾久子さんから愛想をつかされるぞ」 「ちょっと千璃。私と志郎の関係はあくまで下宿屋の女主人と下宿人よ!」  幾久子さんが大盛りライスカレーを千璃さんの前に置いた。 「お昼、まだでしょ?」 「あ、すみません」  千璃さんも幾久子さんには頭が上がらないようだった。 「冬雪ちゃん。この巨体の戦神は通山(とおりやま)千璃(せんり)といって、階級は少尉。金狐(きんこ)の戦神なの」 「高野宮夫人、申し訳ない。大尉が行方不明になった時、一緒に怨霊を追っていたが、自分だけ帰ってきてしまった」  千璃さんは畳の上に座り、私に深く頭を下げた。 「悔やんでも悔やみきれない……」 「いいえ。私も悪いんです。もっと火守り姫のお役目について知っていれば、こんなことにはなりませんでした」
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