7 灯される火

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 ――離縁から五年後の春。  扇屋で育った候補生が戦神になって旅立ち、また新しい候補生が入ってくる時期がやってきた。  私は今年で二十一歳になり、扇屋で幾久子さんとともに働いている。  五年間、扇屋の玄関には毎日欠かさず幾久子さんの提灯が飾られ、異界から戻る戦神と候補生たちを迎えた。  そして――今日、私の新しい提灯が完成した。 「提灯ができたよ」 「とうとうですね」  階級があがり、中尉となった志郎(しろう)さんと千璃(せんり)さんは今年で二十三歳――行方不明になった旦那様の年齢に追いついた。  幾久子さんは新しい提灯を両手で持ち、そっと手渡してくれる。 「なんだか以前と違って、提灯に触れるのも緊張します」 「わかるわ。私も火守り姫について知った後、息を止めて提灯を飾っていたもの」  懐かしそうに幾久子さんは目を細め、真新しい提灯を眺めた。  私の名前『冬雪』の文字が入った提灯は、五年かけてようやく完成した。  灯りにムラのない手漉き和紙を作ったのは熟練の職人で、なおかつ身を潔斎(けっさい)し、作業にのぞむ。  そして、吊り具の銀は魔を祓う特別な銀である。
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