7 灯される火

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 でも、そのたびに私は自分に言い聞かせてきた。 「大丈夫です。きっと旦那様はこの灯りを見つけてくださいます」  私の灯す火が、旦那様の帰る道しるべとなるはずだと信じていた。  着物の胸元には今も旦那様からの手紙がある。  ずっとこの日を待っていた。  もう一度、火守り姫として提灯に火を灯す。    ――黄昏時(たそがれどき)、私は火を灯す。愛しい人が帰ってこれるように。  薄暗くなった通りに、私の名前が入った提灯が灯される。  仄かな灯りに見えても、これは異界の奥まで届く特別な火。  春の強い風が提灯を揺らしたけれど、火守り姫が灯した火は消えない。    ――提灯が壊されない限り、火は消えないと教えてもらった。  ふわりと桜の花びらがどこからか舞い落ちて、その花びらが流れてきた方へ目をやる。   「桜の花びらが……」    闇の中から雪のように降るのは白い花びら――桜の花びらを連れて現れたのは、大きな銀色の獣だった。  青い瞳が私を見つめ、なにか聞こえた気がした。  それは私の名前だったのか、『ただいま』の声だったのか。  銀色の獣に両腕を伸ばす。
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