7 灯される火

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 それが誰なのか、私にはわかる。 「旦那様……!」  ――ずっと待ち続けていた私の旦那様。  唸り声と恐ろしい異形の姿に、戦神たちが私を止めた。   「冬雪ちゃん!」 「離れろ!」  旦那様は完全に人の姿を失い、鋭い爪と牙を持ち、人の言葉を失っていた。  けれど、心までは失っていない。  爪に絡んだ貝の根付が目に入り、その貝の根付に触れた。 「ずっと持っていてくださったのですね」  旦那様の青い目に映る自分の姿が嬉しかった。  ようやく旦那様は私を見て、私は旦那様を見ている。  その目は正気を失っておらず、とても綺麗な目をしていた。 「はじめまして、旦那様」  私は離縁され、あなたの妻ではなくなってしまった。  でも―― 「ずっとお会いしたいと思ってました」  気持ちを伝えられる。  それが、こんなにも幸せなことなのだと、離れなければわからなかった。  離縁から五年後の旦那様。  もう一度、私をあなたの妻にしてください―― 【了】
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