第13話 ワイバーン戦 後編

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第13話 ワイバーン戦 後編

 地面でもがいているワイバーンは無事檻の中に収まった。 リヤシも流石に魔力を使いすぎたのか息を切らしていた。 「はぁ…地味に作るのむずいんだよ…」 どうやらひと段落したみたいで私は木の影から出ることにした。 4人とも息ぴったりで、ミモザもマリィと連携出来ていた。 感動と同時に申し訳無さが芽生えた。 みんなこんなに強いのに私だけ何も出来なかった。 「4人ともお疲れ様、すごかったよ。」 リヤシ以外は何とも無さそうな顔をしていて、さらに虚しさを感じた。  ミモザがワイバーンのいる檻に近づいてワイバーンを指差しながら言う。 「とりあえずこのワイバーンどうするんだ?」 ハクレが指で頬を触れながら考えており、 「うーん、首を切って締めちゃいたいけど魔法ごときじゃ跳ね返されちゃうのよね…。」と答える。 「じゃあ 水 溺れさせる」 マリィ、意外とゲスいこと考えるなぁ…。 しかし、ハクレは首を振りながら、 「ワイバーンはエラ呼吸が出来るの、だから溺れないわ。」 リヤシはもう諦めたかのようにハクレを説得しようと口を開く。 「じゃあもう致命傷与えて…」 「それはダメ!!資金カツカツ!!分かった!?」 だよな…そう言いながらリヤシは深く考え込んだ。 珍しくハクレがまとも(?)にリヤシと話しているのを見ていて、少し微笑ましく見ていた。  するとワイバーンが暴れ始めた。 ミモザが慌てて離れていき、リヤシにしがみついた。 「リヤシ!!ワイバーンに檻壊されないよな!?」 慌てた様子で聞いていたが、リヤシは冷静に口を開いた。 「魔力を豊富に含んで硬くした、そう簡単には壊れないはずだ。」 じゃあ大丈夫か、とミモザが落ち着いたと思ったら、 ワイバーンがその場でものすごい勢いで岩の檻に激突していた、 すると、リヤシの造った岩の檻が轟音をあげて壊れてしまった。  「お、俺の魔法が!?」 リヤシはその場で暴れ始め、 「リヤシ!金が逃げちゃうよ!」 やばい!私は早く隠れないと… と思った瞬間、ワイバーンが私たちに向かって突っ込んできた。 リヤシは状況を察したのか大声で叫んだ。 「みんな横に逃げろ!魔法で防ぐのは厳しい!」 リヤシがそう叫ぶと、私含めて一斉に横に逃げ込んだ。  そのとき、私は余計なことを思ってしまった。 迫りくるワイバーンを見た瞬間、前世の時を思い出した。 あのワイバーンのように、トラックが私に向かって猛スピードで突っ込んできたのを。 それを思い出して、逃げるより先に体を構えてしまった。 「おい!?シレネ!何やってるんだ!?」 ミモザの声が聞こえた瞬間、ものすごい突風と共に私の体が宙に浮かんだ。 「え…?きゃあああぁぁぁ!!!」 気がつけば、ワイバーンの足で私のシスター服の襟を掴まれていた。 「シレネ!!【炎弾(ファイヤーボール)】!!」 ミモザが打った炎弾(ファイヤーボール)がこちらに向かってきてたが、迫ってくるどころか、離れていった。 「だめだ!あのワイバーン逃げる気だ!!シレネェ!」 「はわわわ…!!助けて!!」  パニックになってジタバタするが何もただひたすら4人の姿が小さくのを見届けることしかできなかった。 途中でミモザたちにまた襲いに行くと思い、 落ちないようにワイバーンの足を握って何とかしがみついでいたが、戻る気配がないどころか、どんどん勢いを強めて空に向かっていた。 これからどうなるのだろう。先の見えない絶望に押し潰されそうになりかけながらも、 これまで何とか生き抜いてきたこともあり、根気強くしがみついた。  ワイバーンは一向に止まる気配がなく、雲に突っ込んでいった。 白いモヤが視界に広がり、無意識に目を瞑ってしのいだ。  しばらくしておそるおそる目を開けるとそこは、さっきまで昼時だったのに、月で明るく照らされていた夜へと変わっていた。 あまりの意外な風景に感動していると、私の中の力が目覚めたような気がした。 この感覚…間違いない。 さらに、私の魔力の謎も解けた。  私はワイバーンに向けて手を出し、思いついた魔法を詠唱してみた。 「こい…【"月魔法" 月刃(ムーンカッター)!!】 ブーメランを投げるような用途で手を振ると、想像通り三日月のような形した魔力が、ワイバーンの肉を穿った。 夜に魔法に目覚め、白っぽい魔法の色。 やっぱり、私の魔力の元は"月“だ! 夜じゃなくても魔法使えた理由はまだ分からないけど、 とにかく!このワイバーンをどうにかしなくちゃ…! さらに私はグリジアと戦ったときに使った技の準備をした。 「くらえ!えー…【月光爆弾(ムーンライトボム)】!!」 別に無詠唱でも出すことはできるが、前世の厨二病の記憶がウズウズして、つい技名を言いながら出したくなった。  ワイバーンには刺激が強すぎたのか、遠吠えを上げながら意識を失った。効果バツグンだ! しかし、私を掴んでいたワイバーンの足が、気がつけば離れていて、そのまま私もワイバーンと共に地面へと落ちてった。 ワイバーンは衝撃で飛ぶのをやめて、そのまま真っ逆さまに落ちていった。 相当な高さから落ちると風の衝撃があまりにも強く、意識を保つのも精一杯だった。 でも、ここで意識を失えばそのまま地面に叩きつけられて死ぬのは確定だ。 絶対意識を強く持たなくちゃ…!  しばらくすると地面が見えてきて、慌てて魔法で何とかしようとは思うが、 落下している状況で冷静に考えれるわけがなく、ただひたすらジタバタすることしか出来なかった。 死ぬ…!どうしたら…!何か手は…! すると急に下から強風が吹いてきて、少し落ちるスピードが緩やかになった。 もしかしてと思い周りを見渡すと、遠くの方に小さな少女の姿が見えた。 「シレネ 生きてる よかった。」 マリィ!助けに来てくれたんだ! でもこのままだと死ななくても重傷なんだけどぉぉおお!! 風に煽られて体を回しながら落ちる感覚に戸惑っていると、聞き慣れた声がした。 「シレネェェ!!掴まれぇぇ!!」 ミモザ!どうしてこの高さまで跳んでるの!? いや、それより届かない…!あと少しなのに…! するとミモザの足元に浮いた岩が出てきた。 ミモザはそれに足をつけて、私に向かって跳んできた。 「シレネ!!」 「ミモザ!!」 ミモザに向けて伸ばした手は無事握ることが出来た。 するとミモザはあのときのように私をお姫様抱っこで抱えてくれた。 でも高さはあの教会より高い…! 「ミモザ!!この高さじゃ…!」 「大丈夫!!ハクレ!!」 任せて!という言葉が聞こえると、いきなり地面に水が湧き出てきた。 そこからさらに水の泡が浮いてきて、私たちを包み込んでくれた。 そのまま水に飛び込んだ。 「はぁ!はぁ!い、生きてる…!」  気がつけば地面に着陸していて、生きてるという感覚に涙が溢れた。 「はぁ…なんとか無事でよかった。」 「シレネ 魔法 凄かった。」 「シレネちゃん!一人でワイバーン倒すなんて、流石ね!」 え?どういうこと…? 私が困惑していると、ミモザが指を指して教えてくれた。 そこには地面に面している皮膚以外は綺麗なワイバーンが横たわっていた。 まぁ…それ以外は相当グロい…。 「あのワイバーン、意識失ったまま地面に激突したんだ。地響き凄かったよ。」 私の魔力で…倒したんだ…。 こんな大きな魔物を倒したと思うと、今まであった劣等感がスッと抜けた気がした。
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