第1話 転生

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第1話 転生

 真夜中の薄暗い部屋で1人、画面を睨んでひたすらキーボードを打っている。 こんなのは日常茶飯事で、よく終電過ぎまで残業をしていた。 私には大した能力がなく、このブラック企業で働くことしか出来なかった。 まぶたが重くても終わらせないといけない仕事が山積みで、今ようやく終わった。 街頭しか照らされてない道を、睡魔に襲われながら歩く。 意識も朦朧として、立つだけでも精一杯だ。 横断歩道を渡れば私のアパートが見える。 寝たい…着いたら玄関でいいから寝たい…。 そう思いながら渡っている。  しかし、足元が赤く照らされていることに気づいて、 「…あれ?赤信号だ…。まぁ車の通り少ないし…。」 判断力が鈍っていたのだろう、何も気にせず歩いていたら、 隣から眩しく光る大きな塊がこっちに向かっていることに気づいた。 あ、トラックだ…。そう思った頃には遅かった。 もう避けれない。相手の運転手は私がいることに気づいていない。  轢かれる直前、こんなことを思った。 私の人生で1番楽しかったの、学生時代に引きこもってアニメやゲームしてた時だったなぁ。 って、何その思い出。まさか走馬灯が家族でも友達でもなくアニメやゲームなんて、愚かだなぁ。 死が迫っているのにこの冷静さ。それほど体が疲弊してたんだろう。 これ以上生きててもブラック勤めで過労死。結婚願望もないし、今死んで楽になったほうがいっか。 そして私はトラックに轢かれ、この世を去った。  真っ暗な夜。 今、私は知らない部屋にて目覚めた。 それに硬いベッド。小汚い壁に床。いかにも病院とは思えない。  どのくらい寝ていたのだろう、ていうか生きてるのか…人間の体ってしぶといな… スマホスマホ…って無いな。 はぁ…またブラック企業勤めの日々が始まる…上司のセクハラがマジで嫌。  とりあえず辺りを見回すと、電気はなく、ろうそくにマッチがある。 疲れてたのか違和感なくろうそくに火をつけ、 部屋を明るく照らしてみた。  すると、壁に小さめの壁掛けの鏡が目に入った。 とりあえず自分の姿見て怪我の状況見ておこ…痛みは感じないけど傷まみれかもしれないし。 ベッドから体起こすと、何故か今まで感じていた体の疲労がいつもより軽い気がした。  鏡を覗いてみた。するとそこには私ではない誰かの顔が映った。 「きゃあ!?」 あまりに驚いてそのまま後ろに倒れて腰を抜かした。 心臓がバクバク動いているのが分かる。一応生きている。  深呼吸したあと、立ち上がっておそるおそる鏡を覗いた。 さっきと同じ顔が映った。金色に輝く長い髪に緑色の瞳。 ぺったんこだった私の胸はほんのり膨らんでいて、体が少し小さくなった気がする。  そしてこの人誰?…と言おうとした瞬間、私の記憶ではない、 誰かの記憶が急に頭の中に流れ込んできた。 流れてきてる時、あまりの頭の痛さに気持ち悪さを感じ、このまま死ぬんじゃないかという恐怖に体が縮こまった。  しかし、数分もしないうちに頭の痛みは徐々に和らいだ。 そして全ての理解した私は1人の名前を呟いた。 「…シレネ・ハーゼル。」 この日から私の前世の名は無くなり、シレネの人格も無くなった。  私のこの体の子はシレネ。シスターをやっている。 しかし、彼女は生まれた時からシスターをやっていたわけではなく、 貧乏だった親に教会に捨てられ、仕方なく育てられてシスターになったらしい。 シスターは元から厳しい時間管理や自由すらない労働。 そこにその彼女の出なのか、裏では軽蔑されていて、シスターからは裏ではいじめられていた。 それに耐えきれなかった彼女は、教会の裏庭で採れる毒草を大量に食べて、 このベッドの上で死のうとした。 死ぬ前、彼女はこう言い残した。 「シスターじゃなくて…冒険者になって自由に旅したかったなぁ…。」  そういって彼女、シレネは死んでしまった。 けどそこに私がシレネの体に転生してしまい、生身のシレネは生きているという状況になってしまった。  本体である彼女の過去から今までを知り、とても辛く、悔しい気持ちになった。 私の知った記憶で彼女の感情が分かる。 彼女はずっと、辛い…苦しい…もう嫌だ…と、心の奥底で叫んでいた。 それでもシスターからの嫌がらせは止まらず、教会は見て見ぬふりをした。 彼女の思いが、私の心に深く刺さって、涙が止まらなかった。 助けてあげたかった。この醜い世の中にも綺麗なところはあると教えたかった。 そしてそれと同時に怒りと憎悪が芽生えた。 彼女を遠回しに殺した教会を、私は許せない…! 復讐したい…!けど今の私は弱い…。 だったら彼女の夢を叶える。そして私は強くなりたい。  私は決意した。 彼女の夢、冒険者になって旅をする。 私は強くなって、この腐った世の中を変えたい…! これから私はシレネ・ハーゼルとして、世界を変えてみせる!  しかし、これから大きな壁が待っていることを、彼女はまだ知らない…。
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