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邂逅(2)
目が覚めたとき、俺は何処かのベッドにいた。これは現実なのだろうか。どれが本当なのだろうか。
何だか見覚えのある場所だと気づいたのは、入学案内のパンフレットで見たのだと思い当たったからだった。
この春から全寮制中高一貫の男子校に編入するために、バスの最終便に乗ってやってきたところに、あの事故、あの…
「え、今何時?!」
俺は上半身を起こし、ぱたぱたとポケットのありそうな場所をはたいた。ない。スマホが。そして、昨日の濡れた服から着替えていることにも気がついた。たしかこの服は先に寮に送っていた荷物に入れていたはずだ。
「俺のスマホ…バスの中…?」
最悪だ。どうか夢であってほしい。文字通り、俺は頭を抱えた。いや、そうもしてられない。たぶん明るさからいって、昼前後だと思われる。編入初日から遅刻とかいい度胸だが、今さら慌てても仕方がない気がした。のっそりと起き上がると、ふと窓の外の景色が目に入った。
「時計塔――」
そうだ、昨日の夜、あのおかしな場所で見た景色がそこにあった。あの時、見覚えがあったように感じたのはパンフレットを見ていたからだろうか、だが、今感じている既視感は間違いなく昨日の夜の風景によるものだった。
「…学校だったのか、あれ…?」
彼の言葉が脳裏によみがえる。檻、とか言っていた。全寮制の学校をそう表現するのは決して遠くはないと感じたが、他にも何かにたとえていたような気がする。そう、レイと名乗ったあいつ……
いったい何者だったのだろう。同じバスに乗っていたということは、きっとこの学校の生徒だとは思う。ここで暮らしていたら、また会うことがあるのだろうか。
寮は2名同室だと聞いていたが、今は授業中だろう。部屋には自分ひとりだったが、対になるようにもう一組ベッドと机と棚があった。
ふと、自分が寝ていた側にある机に、きらりと光るものが置いてあるのに気がついた。パズルピースだ。たしか昨日履いていたジーンズのポケットに無造作に入れていたものだった。誰かが着替をさせて、ここにパズルピースを置いたのだ。同室の級友だろうか、それとも、あいつ?
俺はとにかく部屋を出て、これからどうすべきかを尋ねる相手を探すことにした。
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