学園生活(1)

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学園生活(1)

海外の何とかという財団が日本に学校法人をつくってサマラス学園という全寮制中高一貫校を設立したのは10年前というから、結構新しい学校だった。自由な校風とか、理系を育成する男子校とか、難関大学への進学率とか、様々な特色のある学校だったが、そこで一般の高校1年にあたる4年生からの編入試験を受けようと思ったのは、全寮制という一点だった。他にも無利子の奨学金制度とか、そこそこ勉強ができたとかの理由もあったが、交通事故で両親を亡くし、頼る親戚もない自分には、それが最善のように思えたからだった。 相続した家でそのまま暮らす選択肢もあったが、中学の先生の勧めもあって、俺は難関と言われる編入試験に合格したのだった。 自分のスマホを失った俺は、学校から貸与されたタブレットで昨日の事故を検索した。何が夢で何処までが現実なのか、少しでもはっきりさせたかったからだった。 事故は本当にあったらしい。この学園は遠くに海が一望できる山を削ってつくられていたが、そこへ向かう峠道でバスと乗用車の事故があったという記事にたどりつくまでに、そう時間はかからなかった。下ってきた乗用車が濡れた路面で運転を誤り、大きく反対車線に入ったところへ、避けきれなかったバスが横転、乗用車はバスの後部へと衝突、炎上し爆発してそのまま揃って峠へと滑落した…というような次第だった。 まだ調査中なのだろうか、バスの運転手は重傷で病院へ搬送、乗用車の運転手はその場で亡くなったらしく、他に乗客などはいなかった、とのことだった。 (俺たち…乗っていたよな…?) 記憶どおりであれば、その事故に遭遇しているはずだった。しかし、崖から落ちて目が覚めたら、学校の何処かと思しき無人の建物にいて、次に気がついたときには寮のベッドの上だった。 「えーと、成宮くんだっけ? おはよう!」 明るく声をかけてきたのは、俺と同じクラスで隣の席になった笹川直樹という男だった。転校初日から休んだ俺をおもしろがったらしい。 「普通は寮長とかフロアマスターが責任もって起こすんだけど、成宮くんの同室のさあ」 そこまで言って、笹川は声をひそめて、俺の席へ自分の椅子をぐっと寄せてきた。 「あの変わり者と同室とか、編入早々大変だね」 レイとは同じクラスであった。しかも俺とともに寮を分かち合う相手もレイだった。授業を終えて戻ってきた彼と、いろいろと遅れて手続きをした俺は部屋で鉢合わせた。あの微笑を俺に向けて、握手を求めてきた。だが、 「今日は僕も疲れたんだ、また話そう、ハル」 俺は聞きたいことやら話したいことが態度と表情に溢れ出ていたのだろう、レイは穏やかにそれを遮ると、制服のままさっさとベッドに横たわってしまったのだった。
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