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学園生活(2)
たしかに人には左右されない芯の強さというか、近寄り難い雰囲気はあるかもしれなかったが、変わり者、という評価に俺は首をかしげた。
「そんな変だとは思わないけど」
「あいつさ、ちょっと気味が悪いんだよな、人間らしくないっていうかさ」
教室にレイがいないことを目で確認しつつ、笹川は小さな声で言った。
「成宮くんは何も知らないだろうから、一応教えておくけど、あまり関わらないほうがね」
ちょっとむっとしたような顔を俺がしたのだろう、笹川は慌てて背中をぽん、と叩いた。
「いや、ごめん、仲よくやれよ」
笹川は椅子を戻し、自分の席につくと、早速問題集を解き始めた。
レイが人間らしくない、という一面を俺は早速見せつけられることになった。新学期早々の実力テストで、レイは全教科満点の学年1位の成績だったのだ。同じ部屋にいても、確かに寡黙ではあったが、ずっと参考書とか問題集などとは関係のない本を読んでいるようにしか見えなかった。
俺はといえば、中学までは確かに周りよりはよくできたほうではあったが、この秀才が集まる学校では下の方から数えたほうが早い順位だった。
「まずい…真面目に勉強しないと…」
奨学金が無利子であるためには、学業が優秀である必要があった。これは死にものぐるいで勉強せねばなるまい。俺はレイと同じ空間で過ごし、あの時のことはいつでも聞けると鷹揚に構えていたが、自主的に勉強に費やすことで、その機会を得られないまま、幾日か過ぎていった。
レイが変わり者、というのもその間に少しわかってきたような気がしていた。朝、目が覚めると、レイはもう部屋にはいない。寮での食堂にも顔を出さない。学校でも昼食や休み時間には何処かへふらりと消えていた。何処にいるのかを聞いても、中庭を散歩しているのだと言う。そして、微笑む。
夜は俺が必死で課題をこなしている背中で、黙々と読書をして、風呂の時間もついに浴場で見かけたことなどなかった。だが、いつも身綺麗にしていて、俺のほうがよっぽど汗と埃にまみれたような代謝をしていた。
おそらく俺がこの学校で一番レイと一緒に過ごしているはずなのだが、何もわかってはいなかった。ただ、レイは他の者には無表情で何の興味もなさそうな態度であったが、俺に対してだけは物腰が柔らかく、やさしい表情を浮かべることに気がついた。
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