2.歌がきこえるー実玖sideー

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先生は驚きながらも、私の話を聞いていた。 「うん…。“良いところが1つもない”だなんて聞かされてからずっと、誰かと関わること、ちょっと怖いなって思ってるのにね…」 頭では皆が皆そう思っているわけじゃない、と理解していても、感情が付いていかないことは未だにある。 だからこそ、私はついそう言ってしまったのだけれど、鴻上先生は優しく微笑んだ。 「大丈夫。少しずつそこから抜け出せるから。それを言った人は、実玖ちゃんのことをちゃんと見なかっただけ。自分達の都合の良いようにしか見なかっただけ。こんなにたくさん良い所があるのに、彼らはもったいないことをしたわよね、本当」 そう言った後、鴻上先生は一度ふぅっと息を吐くと、優しい微笑みから次第に表情が不穏な方へ変わっていった。 「…だけど、医者としてではなく、個人として言うなら、私が代わりに怒りに行きたいわ。他所様が大切に育てた娘さんに、なんて失礼なことを言うのかしらね。もちろん人間だから、気が合う合わないはあるけれど、仮に合わないにしても、言って良いことと悪いことがあるし、そんなことが言えるほど偉いのかしらねって思っちゃう…」 事情を話してからというもの、鴻上先生は心底驚いていた。というのも、過去に先生自身にも同じような経験があったらしい。だからこそ、私の話を聞くにつれて「医者としてはダメかもしれないけれど、1人の人間として腹が立つ」と言っていた。 初めて先生の反応を見たとき、仮に同じような経験がなかったとしても、きっとこの先生はとても親身になって話を聞いてくれる先生なのだろうと安心したことを、今でも覚えている。
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