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一方で柊希さんは、戸惑いつつも嫌な顔一つせず、私の問いに答えてくれた。それがとても嬉しかった。
柊希さんは、私より2個上の27歳だと言う。
ここ数年はストリートでずっと音楽活動をしているとのことだったけれど、なかなか芽が出なくて困っている、と苦笑いしていた。
私は、好きなことを見つけて、それを続けている柊希さんの話を聞いて、素直にすごいと思ったし、尊敬した。私にはそういうものがないから…
話しているうちに、柊希さんが今度ストリートライブをやることを教えてくれた。行けそうな場所と日程だった上、柊希さんの歌をもっと聞いてみたいと思った私は、彼に行く約束をした。
柊希さんは少し驚いていたけれど、「絶対行く!」と告げると、照れつつも嬉しそうに笑っていた。
その後、夕方から通院の予定があった私は、柊希さんと別れた。
「…何か良いことでもあった?」
通院先の私の担当医である、鴻上先生が、私に笑い掛けながら言った。
鴻上先生は、この先生と話していると、悩み事とか不安に思っていることを自然と話したくなる…という不思議な先生だった。
そして治療を受けていく過程で、鴻上先生と相性が良かったらしい私は、彼女とまるで友人のような関係性を築いていっていた。
「え…、そう、かな?」
「うん、顔色も明るいし、何だか嬉しそう…というか楽しそう?」
鴻上先生がプロだから、というのもあるだろうけれど、こうも簡単に見破られると、少しだけ恥ずかしい。
「あのね、先生。実は…」
私は、柊希さんとのことを先生に話した。
「へぇ…自分から声を掛けたんだ?」
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