1.出会い

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歌うことが好きだ。 学生時代も軽音楽部に所属してバンドを組み、コンテストに出たこともあった。 残念ながら、そのときは入賞は出来なかったけれど、その頃から漠然と将来は音楽で生きていきたいと思うようになっていた。 やがて社会人となり、バンドは卒業と共に解散となった。会社員として働き始めてみたものの、やはり夢は捨てきれず、わずか1年で会社員生活に終止符を打った。 最初はバンドでのデビューも考えて、かつてのメンバーに声を掛けてみたものの、既にそれぞれの生活が定着しつつある中で、“夢を追う”ことに首を縦に振るメンバーはいなかった。それどころか、遠回しに俺を止めようとしたメンバーもいたくらいだった。 結局、ソロで夢を追うことにした俺は、オーディションを受けつつ、ギター片手にあちこちで歌うようになった。 公園、駅、シャッターの閉まった商店街… だけど、現実は決して甘くなく、オーディションに受かるどころか、足を止めてくれる人はなかなかいなかった。 それでも歌うことは辞められず、何とかしようとSNS発信も積極的にやるように心掛けた。 生活は、学生時代に時々使っていたスタジオでアルバイトをしながら、何とか食いつないでいる。 だけど、こんな生活をいつまで続けるのだろうか。 夢を追い掛けて3年…。 見切りを付けるべきか否か悩みながら、今日も歌うために外に出た。 *** 学生の頃、基本は学校の許可された教室で練習をしつつ、本番前やコンテストに出す音源の録音をするときなどはスタジオを利用していた。 だが、学生でなくなった今、教室は使えないし、節約のためにスタジオも頻繁には使えない。
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