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俺の事情をよく知っているバイト先のスタジオのオーナーが、厚意で時々無償で貸してはくれるが、もちろんお客さんが優先なので、予約に空きがあるときに限る。
そのため、練習は良くてカラオケだけど、定番は自宅から程近い、川のそばだった。
比較的大きな川で、川原も十分広い。橋の下を陣取れれば、夏の日差しや突然の雨もある程度はしのげる。
それに川原で歌っていると、ランニングやサイクリングしている人や散歩をしている人、親子連れなど、様々な人が通る。
練習で歌っているとは言え、目に留まる機会が増えれば何でもいい。
無事に橋の下を陣取った俺は、さり気なくSNSのQRコードをギターケースに貼り付け、見せるように傍らに置いておきながら、俺は声を出していた。
翌週、ストリートライブをする予定でいる。
前々から準備をして、場所の許可も何とか取れた。
今度こそは…
そんな思いから、新しく曲を描き下ろしたり、SNSでも度々発信をしていた。
それでも不安がつきまとう。
またダメだったらどうしよう…
SNSを何度発信したとしても、フォロワーが順調に増えているわけではないし、反応もイマイチだ。
声出しの合間にスマホでチェックしてみるものの、やはり期待した結果ではなかった。
がっかりしつつ、せっかく外に出たわけだし、気晴らしに自分の好きなアーティストの歌でも歌うかと思い、コード進行を思い出しながら、ギターを演奏し始めた。
1曲歌い終わる頃、1人の女性が足を止めていたことに気が付いた。
同い年くらいだろうか…。
綺麗なロングストレートの黒髪を1つに束ねた女性だった。
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