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淡い水色のワンピース姿だった彼女は、その格好から察するに、散歩かあるいはたまたま近くで立ち寄った、という感じなのだろう。
「あ…すみません、お邪魔でしたよね」
俺の視線に気が付いた彼女が慌てて言った。
「い、いえ…全然!」
そう言った直後、俺はハッとあることに気が付いた。もしかして、彼女はこのすぐそばの住人で、うるさいと思っていたのかもしれない。
「あ、あの…もしかしてうるさかったですか?」
恐る恐るそう聞くと、女性は驚いたように目を見開き、ふるふると首を横に振った。
「そんなことありません!近くを通る車の方がうるさいくらいですよ!」
確かにこの川原のすぐそばを走る道路は、細道にも関わらず、なかなかに交通量が多い。
俺はひとまずうるさがられていなかったことに対して安心しつつも、このあとどう彼女と話したらいいか悩んだ。
しばらく沈黙が続いていると、彼女の方から声を掛けてきた。
「あのっ…他にも歌われるんですか?」
「え?」
「さっきの歌…私、その歌を歌っているアーティストさんがとても好きで…。すごくお上手でしたし、他にも何か歌われるのかなって…」
はにかみながら彼女は言った。
…驚いた。
“上手だ”と言われたことなんて、久しくなかったから、少し嬉しかった。
「あ、えっと…自分、ストリートでやっていて…」
つい自分の身分を明かしてしまった。
「え?!そうなんですか?!」
彼女はとても驚いているようで、目を丸くしていた。
「す…すみません!こういうの、無料で聴いたりしちゃ失礼になりますよね。でも今お財布を持っていなくて…すみません…」
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