櫻井詩織

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それから車に乗せられて20分くらい経った頃、車は病院のロータリーをグルッと回って停車した。 すると、ニイガキという男が後部座席のドアを開けて「お着きになられました」と言ってきたので車から下りた。 「会社の前に停まっている原付バイクは、このあとうちの舎弟が乗ってきますので安心して下さい」 「それは、どうも」 ニイガキという男、目つきは悪く人でも殺しそうな顔をしていたけど、要所要所で優しさが滲み出ている。 「では、私はこれで失礼します」 「ありがとうございました」 ニイガキと別れてから直ぐに2階にあるお母さんの病室に向かった。 そしてナースセンターの前を歩いていると、看護婦さんから声をかけられた。 「何ですか?」 「あとで担当の先生からお話があると思います。お時間は大丈夫ですか?」 「大丈夫ですけど…」 手術代のことだろうか? 全然用意出来ていないのにどうしよう? 「あの…もしよろしければ、今先生が手すきですのでお話してくださると思いますが、どうしますか?」 「おっ‥お願いします」 お金もないし何の用意も出来ていないけど、ここまで来たら逃げ場がない。 諦めて担当の先生と話をすることにした。 もう駄目だ… 私たちのような子供が何か出来ると思ったことが愚かだった… お母さんに手術を受けさせてあげられない… お母さんを助けてあげられない… お母さん、ごめんなさい… 本当にごめんなさい… 情けなくて、悲しくて、悔しくて涙が溢れてきた。 「しっ‥しお…りん…わた…しが…つい…てるよ…」 いずみんは私の頬を流れる涙を手で拭ってくれた。 自分だって涙で顔がグチャグチャになってるのに…。 「いずみん、ごめんね。自分だけがツラいような顔をして。いずみんだって同じだよね」 いずみんは何も言わず、涙を流しながら優しく微笑んでくれた。 「いずみん、話しを聞きに行こう」 「うん…」 それから看護婦さんに1階の診察室に案内してもらった。
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