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本当に意味がわからなかった。
何がどうなっているのかわからなかった。
嬉しさで飛び跳ねたい気持ちもあったけど、何か見えない力が私たちの知らないところで働いていると思うと怖くて素直に喜べなかった。
しばらく木の小陰で休んでからお母さんの病室に向かった。
そして病室に入って行くと、ベッドに横たわるお母さんとお母さんに寄り添っているいずみんが一斉に私を見た。
「何?何でそんな顔で私を見るの?」
「吉野さんと電話で話したんでしょ?」
そんな風に私に問いかけてきたお母さんの顔色は想像していたよりも悪くて背筋がゾッとした。
「話したよ。でも手術代を出してくれたのは吉野さんじゃなかった…」
「そうだったのね…」
「お母さん、何か知ってるの?」
私がそう尋ねると、お母さんはベッドの上で上体を起こした。
「お母さんにもわからないのよ。でも、私たち家族を助けてくれる人がいるのは事実なの。それに今回が初めてじゃないの…」
「前にも助けてもらったことがあるの?」
「何度も助けられてきたわ。お父さんと離婚する時も弁護士さんが無償で手助けをしてくれたし、引っ越しの手配もしてくれた。吉野さんのところで働き始めたのも、声をかけられたからなの。月50万円以上の給与を保障するからって。初めは騙されていると思ったけど、働いているうちに違うってことに気づいたわ」
「会ったことはあるの?」
「何度かね。私に声をかけてくれたのはブラウンのスーツにシルクハット、背が高くてヒゲを生やした年配の男性だったわ。それに杖を持って歩いていたわね。私は心の中で“あしながおじさん”と呼んでいたけどね」
「その人がいつも助けてくれた本人なの?」
「あの人は違う。代理人みたいなものよ。“あしながおじさん”は【“あの方”に頼まれて来た】と言っていたわ」
「それにしても、何でお母さんを助けてくれるんだろう?」
「違うわよ。私と言うより、むしろ詩織を助けようとして私も助けてもらってるんじゃないかしら」
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