櫻井詩織

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「私?」 「そうよ。中学…いや、小学生の頃からかもしれないわね。中学の時なんか、泉水のために男の子を殴って怪我させて問題になったわよね。何十回も学校に呼ばれたわ。高校の時も原付きを乗り回したり髪を金髪に染めたり学校をサボって好き勝手やってたから何度か学校に呼ばれたわ。でも、それは形式上のことで呼ばれただけで、責められたことはないわ。というより逆にお礼を言われたわ。詩織の知り合いのおかげで、予算的なことがあって全く手つかずの学校の修繕しなきゃいけないところを全て直してくれたって。しかも職員室の机や椅子、校長室のソファーなども、全て高級なものに交換されたって。中学の時もB女子校の時もそうだった」 それって、最近あった私のT女子校の出来事と同じじゃん。 「何で隠してたの?」 「学校側から詩織には言わないように強く止められてたのよ」 「何それ?隠す必要なんてあるの?」 「たぶん、“あしながおじさん”に口止めされていたんだと思うわ」 何がしたいのか何が目的なのか謎が謎を呼んだ。 「それよりお母さん、手術費用のことはいずみんから聞いた?」 「えぇ…これも“あの方”が全てやってくれたに違いないわ」 「“あの方”って何者なの?」 「“あしながおじさん”に会えれば、“あの方”を知る良い機会になると思うんだけどなぁ。“あの方”は表舞台には顔を出さないから」 「会いたい。私、“あの方”に会いたい。会ってちゃんとお礼をしたい」 「わっ‥わた…しも…」 ずっと私とお母さんのやりとりを黙って聞いていたいずみんが興奮気味にそう言ってきた。 何で私たち家族を助けてくれるのかはわからない。 会ったことも話したこともない私たちを、何でいつも窮地から救ってくれるのか知る由もない。 だからこそ会ってその理由を聞きたい。 どんな人でどんな声をしていてどんな顔をしているのか知りたい。 とにかく会いたい。 私たち3人は抱き合い、声を上げて泣いた。 人生においてこの上ないくらいの喜びと嬉しさと一生かかっても返しきれないほどのご恩への感謝を胸に私たちは泣いた。 それから3日後にお母さんの手術が行われ、無事に手術は成功した。 お母さんが目を覚ましたのは手術から5時間が経ってからだった。 私といずみんは面会時間ギリギリまでお母さんのもとを離れなかった。 「いずみん、今日は外食しながら帰らない?」 2階から階段で下りながら、いずみんを外食に誘ってみた。 お母さんの無事の手術を祝してという思いもあった。
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