西島香澄

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「香澄ちゃん、じゃあね。また明日」 「じゃあね」 「じゃあな」 舞香は私に手を振ったあと、パパに会釈をして帰って行った。 詩美は軽く頭を下げるとパパを睨みながら歩いて行った。 「良い子だね?」 「うん、私の大切な親友」 「そっか…」 私とパパは互いに何も言わず、しばらく沈黙が続いた。 私たちの横を学生たちが通り過ぎて行った。 「何も言わず、突然現れてすまない」 「うぅん」 「9年間も音沙汰なしで、何の連絡もしなくて本当に申し訳なく思ってる」 「会いたかった。ずっとずっと待ってたんだから…」 「僕も会いたかった」 「ずっと探してたんだから…」 「ありがとう」 「パパっ」 私はパパの胸に飛び込み、思い切り抱きついた。 「わぁぁぁぁぁ」 私はパパの胸の中で子供のように泣きじゃくった。 自分でも信じられないくらい止めどなく涙が流れ、喉が潰れるくらい声をあげて泣いた。 人が行き交う道端で恥ずかしげもなくしゃくりあげて泣いた。 そんな私をパパは優しく抱きしめ温かいぬくもりで包み込んでくれた。 どれくらい泣いただろうか? 思い切り泣いたら少しだけ心が落ち着いてきた。 パパの胸から顔を離して顔を見上げると、パパは優しい笑顔を見せてくれた。 私の記憶の中のパパは本当に格好良くて優しかった。 9年もの長い歳月の中で、私はパパを美化して心酔していると内心思っていたけどそんなことはなかった。 私の目の前にいるパパは想像どおりの格好良い男性だった。 いや、それ以上だった。 少し年をとったパパは以前よりも脂が乗って魅力的になっていた。 「ごめん、服がビチョビチョになっちゃった」 「構わないよ。それよりお腹すかない?」 「ちょっと」 「そうだよね。それじゃあ、どこか店に入ろう」 「うん」
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