西島香澄

9/81
前へ
/354ページ
次へ
「お腹いっぱいになった?」 「いっぱい。ごちそうさまでした」 「そう、それは良かった。ママが心配するといけないから、家まで送ってくよ」 店を出ると、幸せな時間の終わりのカウントダウンが始まってしまっていた。 まだ、帰りたくない。 このまま別れてしまったら、次に会うのはいつになってしまうのかわからない。 何年後になってしまうかもしれない。 2度と会えなくなってしまうかもしれない。 涙が溢れて今にも泣いてしまいそうになった。 「まだ帰りたくない…」 私は少しでも長くいたくて、そう言った。 困らせてしまうかもと思った。 「どこか行きたいところある?」 「東京スカイツリー…」 言ったあとに、私わがまま言ってるなと反省した。 「いいね。スカイツリーから東京の夜景でも見に行こうか?」 「いいの?」 「パパも見に行きたくなった」 それから、タクシーで東京スカイツリーのある墨田区まで20分かけて移動した。 タクシーから下りると、目の前には634メートルある日本一高いタワーがそびえ立っていた。 下から見上げるそれは、あまりに巨大で圧倒された。 中に入ってチケットブースで展望回廊+展望デッキのチケットを買って、エレベーターで展望デッキまで上がった。 そして展望回廊を歩いてタワーで1番高いフロア450へ登って行った。 天望回廊はチューブ型でガラス張りの回廊が続いていて、まるで空中を散歩しているような不思議な感覚に包まれた。 終始感動して興奮が収まらなかった。 フロア450からは東京の夜景が360度見渡せる巨大パノラマになっていた。 あまりの夜景の美しさに涙が自然と溢れて流れていた。 ふと見上げると、パパも目をキラキラさせて夜景に見入っていた。 その顔はとてもカッコよく、そして寂しげに私の目には映った。 ひと通り見て回ると、記念に東京スカイツリーのキーホルダーをお揃いで買ってもらった。 帰りもタクシーで家に向かった。 タクシーの中では別れるのが悲しくて離れたくなくて、パパの袖をずっと掴んで離さなかった。 涙が溢れそうになった。 必死で堪えて、黙って外の景色を眺めていると見慣れた街なみが私の目に映ってきた。 「香澄、パパの連絡先を教えとくよ。これ」 パパはそ言うと、スマホにQRコードを表示してくれた。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加