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引っ越し
荒れ気味に波打つ海岸線が次第に遠くなって行き、それと共に民家が姿を現し始める。
この辺りは古い家が多く、コンビニの存在さえも疑わしい静寂で殺風景な街並みである。
母の話では、この海沿いの小さな町に父が住んでいるらしい。
今も見る限り人の姿は一人として見当たらない。動きがあるモノと言えば、どんよりとした雲から舞い落ちる大粒の雪のみである。
3月も間もなく終わろうとしているのに、真冬を思わせる寒さだけがこの街に動きを与えている様である。
今、私と母は空港へ向かう列車で移動中。数時間後には、新しく住み始める不慣れな都会の街中で、あたふたしていることと思う。
今だけは穏やかな気持ちで、父の住むこの静かな街を目に焼き付けて置こうと思う。
隣に座る母は目を閉じたまま静かに座っている。窓の外とは裏腹に暖かな車中の心地よさに、乗車すると直ぐに眠り始めたのだ。
それも当然だと思う。昨日は一日中引っ越しの準備で忙しかったし、それに、母には精神的にもかなりきつい日でもあったのだから。
その引っ越しの荷物は、今朝、全てトラックに詰み終えている。予定通りだと明後日には新居に届くはずである。そこから慣れない新居に落ち着くまでの間は、母にとっても大変な日々が続くことになる。
だから、今日と明日はゆっくり休んで欲しいと思う。
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