恥ずかしがり屋の小鳥

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「合唱会委員前に出てくださーい」 俺、宮本ヒロは面倒臭く立ち上がった。 教壇までベタベタと歩く。 女子の合唱委員の森本藍も出てくる。 森本は話さない。何かを話すにしても、とても小声であまりきこえない。 今回の合唱の決め事は俺メインで話す事になるだろう。 「女子はソプラノ、アルト、男子はテノール、バスに分かれまーす」 ガヤガヤとみんながお喋りする中、俺は大声で話す。 森本藍は助けにならない。 「おーい、声高いもんから低いもんにグループ分かれろよ。こないだ音楽の先生に言われただろ?」 森本は下を向いて.どうしようか焦っているようだ。 静かにしてくださいと、一言でも言って欲しい。 しばらくして.大体声の四分割はできた。 ピアノが弾ける美山が、それぞれのパートの音楽を弾いてくれるるが、「難しいー、やめたい」と聞こえてくる。 俺だってやりたくねーけど、仕方ないんだよ、やれ。 そこから、数日間放課後に合唱会の練習が始まったがグダグダ…… みんなやりたくないのは分かるけど、こんな状態ででるのは恥ずかしいだろと思う。 森本は相変わらず下を向いている。 と言うか、楽譜を見ていた。 ……やはり、森本にはムリか。 *** 放課後、家までの帰り道。 こんなんでどーにかなるのかなと帰り道の防波堤を歩く。 この町で綺麗なのは海だけだ。 それ以外何もない。 早く終わらねえかな、合唱会。 もうグダグダで最下位でもいいから、終わって欲しい。 ため息をつきながら、歩いていると、聞き覚えのあるフレーズ。 向こうの方に防波堤に座って、うちのクラスの課題曲を歌っている。 あれは森本? すごく…綺麗な声だ。 足を止めて聞き入ってしまう程。 「森本!」 俺はあまりの感動で声をかけて、彼女の居るところまで走った。 森本は、あっ!と驚いた顔をして、顔を下に向けた。 「お前、すごいよ!歌上手いし、綺麗な声なんだな!」 森本の顔が赤く染まっていく。 「教室でもそんな感じで歌えよ、きっとみんな引っ張ってけると思うんだ」 「でも、私、……変な声でしょ?、目立つのが怖くて」 確かに森本の声は独特だ。アニメの少女ような声というか、まるで作ったような可愛い声を持っている。 「大丈夫さ、俺もついてる。今、俺感動した!歌ってみようぜ」 「えええ….」 と、彼女は引き気味だった。 「繊細で透き通った声だった。自信持てよ!絶対いい声だよ!」 「そんな…」 「俺ら、頑張って合唱委員頑張ろうな!」 俺は何度も森本を放り帰って手を振った。 あんなに、綺麗な声、聞いた事ない。 みんなが聞いたら今よりきっともっと頑張ってくれるに違いない。 *** 次の日の合唱会の練習。 俺は早速森本の美声を披露しようとしたが、彼女はカチコチに固まってしまって緊張してしまっている。 「森本、昨日の調子でやればいけるって」 「森本が歌うの?普段声小さいのに?」 「黙れ、山本。お前は森本の真の声を聞いていないからそう言えるんだ。さぁ、森本昨日みたいに歌ってみて!」 と言ってみるものの、彼女は目をぎゅっと閉じてなかなか声を出さない。 「ほらぁ、森本が可哀想じゃん、無理だって」 周りからブーイング。 俺、悪者。 「わかった、わかった、森本、1人で歌うのは恥ずかしいよな、やっぱりみんなと一緒に歌おう」 「…ちょっと待って……」 森本は小さな声で俺を止めた。 そして、例の綺麗な声で歌い出す。 みんなが「あっ」と息を吸い込んだのが分かった。 透き通る清流のような美声。 滑らかで聴き心地のいい音程。 森本が歌い終わるとみんなから歓声が上がった。 「森本さん、声綺麗〜」 「普段アニメみたいな声なのに」 「いいじゃん、いや、むしろアニメも可愛いいと思ってたし!」 「森本さんのソロいれよーよ」 森本を見ると赤くなっていながらも少し嬉しそうだ。 良かった。 これで、うちのクラスの優勝はもらった! とは、そうそういかず、なかなか綺麗に揃わない。 音楽の先生に手伝って貰ってなんとかパートごとの音程をみんなに覚えて貰った。 帰り際、森本が「大変だけど楽しいね」と小さな声で言った。 「そうだな、でも、うちのクラスには、普段鳴かない怖がりの小鳥が、本番では綺麗に鳴いてくれるだろうから、心強いよ」 俺が彼女の肩を叩くと、 「あはは、小鳥だなんて…照れるよ」 と、顔を赤らめた。 森本の声はよく通る。 今回の歌にあの綺麗な声はぴったりだ。 「……頑張ろうね」 「おぅ、頑張ろうな」 *** 合唱会当日。 クラス全員が緊張していた。 お互いに励まし合ってる。 中でもソロパートのある森本は特に緊張していた。 学校行事でこんな優勝目指して頑張った行事があっただろうか。 体育祭でも各グループで盛り上がっていたくらいで、ここまで一体感を出したことはない。 不思議だ。 多分、森本のあの美声がそうさせたとしか思えない。 合唱会くらいでって思うヤツもいるかも知れないが、俺たちのクラスは一致団結していた。 そして、俺たちのクラス。 壇上に上がり、ピアノと指揮者が合図をする。 俺らの声がまるで一直線になるように響き渡った。 それから、漣のようにゆるやかに…… 練習した通りに。 ゆっくり、ここは大きく。ここは優しめに。 全員の声を意識して。 やった! ピアノの音も俺たちの声も、綺麗にハモっている。 あとは森本のソロ。 彼女のソロが始まり、俺たちも緊張したが、他のクラスよみんなが「おお…」と、どよめくくらい森本は美しく歌った。 まるでこのソロのパートは彼女の為にあるように。 歌い終わり、全員で礼をする。 手のひらを広げてみると、汗びっしょりだ。 舞台袖に入ってから、森本が、普段話さないような派手目の女の子にハイタッチを求められるているのが見えた。 結果は、 頑張った甲斐あって、優勝だった。 久しぶりに感じたチームワークと勝利に、俺は合唱委員になって良かったと心から思った。 *** 彼女は"声"で友達を作ったようだった。 物静かな感じは変わらないが、友達と笑い合っている姿を見ることが多くなった。 俺も森本に挨拶する事が増えたし… 今度映画でも誘ってみようかと思っている。
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