プロローグ

1/1
前へ
/6ページ
次へ

プロローグ

「フィッシェル・ルクラーズよ、貴様とは婚約破棄する」 「ハエル様……どう、して……?」 「俺にはお前は相応しくない。学園一の美人で強い魔法を使えるジュリアこそが俺に相応しい」  学園の廊下の角にある一室で男女がそう話している。  窓際の近くある机に少し体重をかけて座っているハエルは、その細く長い足を組んで目の前にいる自分の婚約者であった彼女を見下す。  全て話し終わったというように彼は部屋を後にすると、残されたフィッシェルは目に涙をためて、その場にうずくまる。 (ハエル様……)  彼女は心から彼のことを愛しており、彼を信じていた。  爵位の高さに応じて、自身の扱える魔法も強くなると言われているこの王国で、伯爵令嬢であったフィッシェルは男爵令嬢が使うほどの魔力しかなかった。  幼い頃より際立って何か秀でたことがあったわけではない彼女だったのだが、両親の仲がよかったことと事業提携を理由にハエルとの婚約が決まった。  つまり、政略結婚であったわけだが、魔力が並より劣っている事がフィッシェル自身一つのコンプレックスとなっていた。  一方、彼女の婚約者であったハエルは侯爵令息らしく魔力も強く、そしてそのハエルと肩を並べるほど強かったのがジュリアだった。 (でも、ジュリア様なら仕方ないのかしら。学園一美人で魔法成績も良く……それでも、それでも)  それでもハエルを想う気持ちが強かったフィッシェルは、彼から婚約破棄をされたことにひどく落ち込んでしまう。  彼と過ごした今までが頭の中によぎり、そして涙は止まらない。 「──っ!!」  彼女の嗚咽だけが響き渡る教室の扉が、ゆっくりと開かれる── 「フィッシェル?」 「マリー……?」  扉を開けて中に入ってきたのは、彼女の親友であり2歳からの幼馴染、そして同じクラスのマリーだった。  マリーは彼女の泣きじゃくる様子に驚くと、慌てて彼女に駆け寄ってどうしたのか、と尋ねる。  そして、事情を聞いたマリーはフィッシェルを慰めるように強く抱きしめた。  その温かさに余計に涙があふれて止まらないフィッシェルは、マリーが親友で本当によかったと思った。  幼馴染であり、ずっと傍にいて支え合ってきた彼女たち。  しかし、フィッシェルはまだ知らなかった。  この三か月後に訪れる悲劇と、その後の自分の運命を──
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加