西園寺響子

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西園寺響子

 その日、小学生の時の写真を中等部で一緒だった山本さんに見せられ、早退をした響子は、部屋で休んでいました。  すると、『大和学園』から、校長先生。教頭先生。保険の先生が自宅まで尋ねてきました。  体調が悪く休んでいる時に、部屋から出てくるよう家人から言われるのはこれが初めてだったので、何か大変なことが起きている。それも、あの小学校の時の出来事だろう。と、想像は付きました。  学校からの連絡で、西園寺財閥の当主であるお父様と、お母様。鈴森真理が集められ、リビングで先生たちと向かい合う形で座っていました。  響子も家族たちの並びに座りますと、校長先生が話し始めました。 「この所、学校内で良くない写真が出回っておりまして。それが、西園寺様のお嬢様、響子さんの写真と言う事で、生徒から没収いたしまして確認させていただきました。」  そう言うと、リビングの机の上に、あの2枚の写真がだされました。  響子は、もう、下を向きませんでした。  両親は大層驚きながらも、 「私たちは、その現場にはおりませんでしたが、響子が、小学校の時に同級生に謀られて、妊娠、出産をしたのは事実です。」  と、静かに答えました。  しかし、写真をまともに見ることはできませんでした。  あのような恥ずかしい格好をさせられた状態で自分の娘が犯されたのだと知るのは、相手を知っているだけに大層辛い事実だでした。  保険の先生が聞きました。 「では、お子様は、今・・」  鈴森真理が言いました。 「私の子供として育てております。戸籍もそうなっていますし。いずれ、響子お嬢様が成人した折には後見人としてつくことが決まっております。」  と、毅然として言いました。 「学校としましては、今回の事は全て事実無根であると、通したいと思います。西園寺さまはどのようにお考えでしょうか。」 「響子?お前はどうしたい。もう、高校生だ。自分の意見を言ってみなさい。」 「お父様。私は、謀られて妊娠してしまったのですけれど、理子には罪はないのです。私は理子を産んだことをもう隠すつもりはありません。こんなふうに写真が出回ってしまって、もう隠し通すこともできないと思いますわ。  もし、それで『大和学園』を退学になってしまうのでしたらそれでもかまいませんわ。  私、16歳になったら理子の母親として、養子縁組の手続きをしたいです。役所にもきちんとした戸籍の届けを出したいと思います。」  校長は困ったように言いました。 「謀られたとはいえ、小学生での性交、妊娠、出産というのはさすがに学校としては認める事は出来かねます。」 「わかりました。高校はその事情を理解いただけるところに入りなおします。そう言った学校がなければ大検で高校卒業の資格を取りますわ。」  響子は凛として言いました。 「16歳で結婚が許される年齢になったら、理子の養子縁組の手続きをとります。私は理子の母親として生活します。ママは真理さんではなく、私だと教えます。もう3歳半。理子は賢いからきっとわかってくれますわ。」  そのようなやり取りの後、 「それでは退学の手続きは後日書面にて。」  と、校長が言って、学校に帰って行きました。  そのリビングの片付けも終わらないうちにチャイムが鳴りました。  今日は、もう訪問客は断ろう。と、西園寺財閥の当主の父親が、来客を断ろうとした時、涙にくれた笹森今日子がカメラに写っていました。 「響子?今日、笹森さんは来る予定だったのかい?」  父親にそう聞かれて 「いいえ、最初、送ってくれようとはしていましたけど、保険の先生に帰るよう言われたので、何も約束はしていませんわ。」  と、言いながら、門に立っている笹森今日子を見て、 「あら、何かあったのですわ。笹森さんが泣いているなんて、初めて見ましたもの。お話聞いてもよろしいかしら?」  と、そこにいる全員に聞きました。 「えぇ。でも、あなたも疲れているだろうし、お部屋で10分だけね。」  響子の体を気遣い、家人たちは渋々了承しました。 「どうぞ。どうなさったの?大丈夫?」  響子の部屋に招かれた笹森今日子は、涙ながらに響子に謝った。 「ごめんなさい。あの写真を最初に男子のロッカーに入れたのは私なの。牧君と、そのお友達の榊原健斗君にそそのかされたのよ。」 「え?なんで牧君が?それに榊原健斗は四国にいるはずなのに。  でも、なんで?笹森さんがそんなことをするなんて?笹森さん。酷いわ。」  西園寺響子は大層驚いた様子でした。 「男子二人の話は半分嘘かとも思っていたのよ。  それに、中学3年位から、西園寺さん、私に対して我儘なことを結構言ってきていたから。そのこともちょっとモヤモヤしていたの。  元々西園寺さんがとても綺麗だしお金持ちだし、そう言ったことを全て妬んでいたし。それで、それで、色々なことが混じって、あんなことをしてしまって・・・  取り返しがつかない事は分かっているわ。  でも、私、結局、あの二人に騙されていたの。  さっきレイプされてしまったのよ。写真も撮られたわ。」 「なんですって?榊原君はレイプできない身体になっているはずよね。じゃ、あの正臣君に?」 「えぇ。お茶に薬を入れられて。西園寺さんを犯した時と同じ薬だって言ってた。ガムテープで手首を縛られて・・・うぅ・・うっ・・」 「ねぇ、笹森さん。私、今、混乱しているわ。あなたのせいで酷い目にあったことも分かっているわ。それでも笹森さんはずっと味方だと思っていたから。  でもね、今は、もっと大事なことがあるわ。  さぁ、こっちの部屋へ。」  笹森今日子は西園寺響子の昔の部屋の隣に作られた婦人科の診察室兼手術室に連れて行かれました。  家の中にこのような設備があったことで、西園寺響子の妊娠、出産は益々真実味を帯びました。 「家の者に事情を話しても良い?産婦人科医を呼んで避妊の処置をしなくては。妊娠でもしたらそれこそ、私と同じになってしまう。それとも、笹森さん、子供欲しい?」 「や・・やめてよ。子供なんてできたら学校にいられなくなる。え?何とかなるの?」 「えぇ。今はアフターピルってお薬もあるし、レイプはさっきの事なんでしょう?  あなたの傷、みてもらった方がいいわよ。牧君、学園では女性関係の良くない噂があるわ。何か病気があったら困るでしょう?  真理さん。お父様。お母様。ちょっとお集まりくださる。それで、かかりつけの産婦人科の先生を呼んでほしいの。笹森さんがレイプされたの。」  今日子は西園寺家の家族全員にレイプの事実をばらされてしまったが、自分のしたことに比べればなんと言う事もないと思いました。  でも今日子は、まだ響子が退学になった事を知らないのです。  西園寺家の当主が顔を真っ赤にして怒って言いました。 「誰に?まさか、榊原健斗?あいつはもう役に立たないはずだ。」 「お父様。笹森さんは榊原君と、お友達の大和学園の「牧 正臣」の二人に騙されたらしいの。たしか、牧君ってお父様が外科医よね。医者同士でお友達なのではないかしら?  詳しいことは後で言うけれど、避妊の処置は早い方が良いのでしょう?」  西園寺響子は、笹森今日子が不利になるようなことは何も言わずにいてくれました。  父親は西園寺家のかかりつけの産婦人科医を呼んでくれました。  かかりつけの産婦人科医は、笹森今日子以外は全員診察室兼手術室から出して、まずは病院から持って来たアフターピルを飲ませました。  そして、下ばきを脱いで診察台に上がるよう促しました。    産婦人科の診察台を初めて目にした今日子は、小学生でこの台に乗らなければいけなかった響子の事を思うと、改めて、今回してしまったことへの後悔の念が湧いてくるのでした。  今日子はナプキンも持っておらずに現場で拭いたまま下着を履いてしまっていたので、新たな出血で下着は血がにじんでいて、太腿には流れた血と精液が付いたままでした。  今日子は下着を脱いで、恐ろし気に診察台に乗りました。  一般の産婦人科とは違い、顔や、様子を見ながらの方が安心できるだろうという産婦人科医の考えで医師との間にカーテンはありません。 「まずは、外側の血を拭きますよ。」  産婦人科医は今日子の太腿の間の血と、外陰部の血をぬぐいました。  そして、 「ちょっと痛いかもしれないけれど、洗った方がいいと思うから。」  と、器具を慎重に膣に入れながら膣内を洗浄しました。 「うん。そうね。処女膜が破れての出血がほとんどね。あら、指を入れてかき回されたのね。爪の傷がついているわ。この残っているのは超音波とかに使うジェルね。これで濡らしたおかげでたいした傷にはなっていないわ。」  そういうと、洗浄した後を綺麗に拭いて、ナプキンを渡してくれました。  その後、身長は違うが、下着のサイズは西園寺響子の物で良いだろうと、響子を呼んで、下着を一枚もらえないか聞きました。  響子は新しい下着を持ってきてくれました。  体格の良い響子はほっそりしているようでも骨格はしっかりしていましたので、小柄で肉付きの良く見える今日子と驚いたことに下着のサイズが同じでした。  産婦人科医は牧正臣の悪いうわさを響子から聞いていたので、『念のため』と言って、抗生物質も処方してくれました。 「さ、これで大丈夫よ。もし、変な病気を持っていたとしても防げるはず。  傷の様子は写真を撮らせてもらったわ。できればレイプ事件として警察に届けたいの。それから採血させてもらっていい?身体が動かなくなったのだったら睡眠薬か何かの薬が採取できるかもしれないから。」 「はい。採血してください。警察には届け出します。私の顔ではレイプされたなんて言っても疑われてしまうかもしれないので傷の写真も提出してください。」  そうして、診察室から出て、西園寺家の全員がそろっているリビングに通されました。 「彼女、警察に届けてくれるそうです。これを機会に響子お嬢様の事件も表に出しましょう。昨今こういった薬を使った犯罪が増えています。西園寺財閥の名にはこんな事では傷もつかないでしょう。」  かかりつけの産婦人科医は声を大にしていった。 「西園寺財閥は大丈夫だが、響子にはまだ未来があるんだ。」 「そんな、小学生で騙されてしまったお嬢様を理解できないような男性でしたら西園寺財閥でもいらないでしょう?」 「うむ・・確かにそうだが・・・」 「お父様。私に、もしふさわしい旦那様が来てくださらない様でしたら、私が西園寺家を継ぎますわ。このことを知っても、私の事を理解してくださる男性がいれば、様子を見てから喜んで結婚いたしますわ。」 「わかった。それでは、響子の件も出回っている写真と一緒に表に出そう。  そうすれば、あの写真には何も意味はなくなる。面白がる奴は面白がればいい。儂に逆らって無事で社会生活を送れると思うやつがいればな。」 「お父様ったら。  それでね、笹森さんから家族全員に言いたいことがあるそうなのよ。」  今日子にそう言われたので、西園寺家の面々はその日二度目のリビングへの集合をしたのでした。  今日子は最初はうつむきながら、でも次第に顔をあげて涙を流しながら話し始めました。   「西園寺家の皆様、今日は、私にこんな風に治療をしてくださってありがとうございます。私、こんなに良くしてもらう資格はないんです。  実は、あの写真が出回ってしまったのは・・・・・・・私のせいなんです。」 「うむ。何となく察しは付くな。榊原健斗が絡んでいるのでは。でも、笹森さんはうちの響子とは仲良くしてくれていたと思ったのだが・・・」 「あのね、お父様。私、笹森さんがさっき私におっしゃった事で覚えがあるのよ。  私、中学校の終わりの頃から、笹森さんが牧君と仲よくしているのが面白くなくて、笹森さんに結構我儘を言っていたわ。  お家のお手伝いもして、勉強もいつもできて、ダイエットも頑張って綺麗になって。なんでもできる笹森さんをちょっと困らせたかったの。  そのことがきっと笹森さんを追い詰めてしまったのよ。  本当に私の方こそごめんなさいね。」 「西園寺さん。私の低俗な考えで、大変なことになってしまって。本当にごめんなさい。  西園寺さんといつも一緒にいるものだから私、きっといい気になっていたのよ。  少し位我儘を言われてもあんなひどいことはするべきではなかったわ。  そのせいで、ううん。そのおかげで西園寺さんが小学生の時に味わった恐ろしさを共感することになるなんて。  私、もう、これからはずっと西園寺さんを裏切らないわ。」 「笹森さん。ありがとう。でもね、私、今回の件で、学校側に事件の事がばれちゃって。どんな事情があっても『大和学園』は小学生での性交、妊娠、出産は許せないって。退学になっっちゃったのよ。」 「えぇ?そんな、酷い。もとはと言えば榊原健斗のせいなのに?」 「今は、榊原君は学校にはいないし。もう、お仕置きは受けているし。ね。」  榊原健斗の陰部を思い出して、 『あぁ、なんて恐ろしいお仕置き。』  と、思いながらも 「私、署名を集めるわ。私だって同じ目に遭ったんですもの。牧 正臣も許さない。」  そこで、西園寺財閥の奥様がのんびりとした声で静かに話し出しました。 「そうねえ。私もPTAの方で署名を集めようかしら。二人はこれからも一緒に『大和学園』に通ってほしいわ。大学卒業まで。  そして、もし、響子が結婚出来たら結婚後も仲よくしてほしいと思っているわ。もちろん、笹森さんが結婚した後もね。  ふふ。私ねぇ、笹森さんがいらっしゃるようになってから、実は笹森弁当店に何度かお邪魔していてね。  ねぇ、あなた。最近のうちのクリームコロッケ美味しいでしょう?」 「なんだ?突然。こんな時に。確かに美味いが。  料理長がレシピを変えたのではないのか?」 「あれねぇ、実は笹森さんのご実家のクリームコロッケですの。」 「えぇ?そんな!仰っていただければお届けしますのに。」  今日子は思いがけない援軍におどろき、弁当屋のおかずが財閥の家の夕食になっている事にも驚いた。  たしかに笹森弁当店では、他の揚げ物は何度か同じ油を使うのだが、クリームコロッケは必ず最初の油で揚げることにしている。  父がクリームコロッケは余り色が濃くなるのを嫌うからなのだが・・・ 「うふふ。私ね、隣町とはいえ、あまりああいった商店街は歩いたことがないでしょう?誰も私の顔を知らない場所で、こっそりお買い物するのって案外楽しいのよ。」  響子のお母さんの響は、鈴森家の中でも箱入り娘だったので、お供を連れずに外を歩くなど、許してはもらえなかったのだ。  しかし、ここ最近、運転手が今日子の実家を覚えてからは、近くまで乗せて行ってもらって、1時間ほどぶらっと歩くのだそうだ。 「あのね、笹森さん。響子は小学校の頃から背がぐんぐん伸びてね。それは家系のせいもあるのだけれど、海外の血を引いているのでこのままスリムでいるのは大変だと思うの。  実際高校生になってからは大分身幅も出てきているのよね。もしダイエットが必要なほど大きくなってしまったら、そんな時には、笹森さんが頑張ってダイエットされたときのことを話してくださるとうれしいわ。  響子は小学校の事件の後、ふさぎがちだったけれど、無理やりでも中学校は最初から通いたいと言ってね、まだちょっと身体が戻っていなかったから心配だったのだけれど、仲の良いお友達ができたと言って、昔の様に笑うようになったのよ。  もちろん、きっと響子が我儘なこともあったのだと思うわ。  それに、女の子として、あなたは、結果として響子を利用した卑劣な男子二人に騙されて同じ目にあわされてしまった。高校生で性交渉をしているお嬢さんが沢山いる中であなたは処女だったわ。  あなたも遊び慣れていない真面目な学生さんなんだってこと、これで証明できますわ。」  西園寺響子は母親の言葉を聞いて退学しなくても済むのかもしれないと思うと、やはりほっとした様子になり、今日子の手を取って言った。 「警察に堂々と被害届を出して、学校側には署名を出しましょう。  被害届を出せば、牧正臣の家にも捜索が入るし、榊原健斗の家にも捜索が入るわ。笹森さん、写真撮られたって言っていたわよね。きっと、どちらかの家に保管されているわ。取り返して、それも警察に提出しましょう。」 「えぇ。そうね。一緒に。行きましょうね。」  笹森今日子は、涙ながらに西園寺響子に返事をしました。  そして、西園寺響子に制服の新しい予備のリボンを貰って、家に帰りました。  その日は、西園寺財閥の当主である父親も一緒に笹森家に向かい、帰宅が遅くなってしまった詫びと、その日に、今日子に起きた事件の事を話してくれました。  レイプされてしまった後の手当も住んでいるし、避妊もしたので心配しないように言ったが、心の傷については西園寺家でも十分にケアしたいので、しばらく家の手伝いを休ませてほしいと申し出たのです。    そして、本題に入りました。  自分の娘も小学校で同じ目に遭い、不幸なことに妊娠してしまった。  心の傷は中等部になってから響子が癒してくれた部分が大変大きい。  西園寺家の意向としては、制服などは、西園寺家で用意するから、できれば残りの高校生活と大学生活を西園寺家で響子と一緒に過ごしてほしいと言い出したのでした。  笹森家では、そこまで西園寺財閥の当主までもが今日子の事を心配してくれているので、嫌も応もなかった。今日子の事を全部面倒を見てくれるのだったら今日子にとっては、こんなに良い話はないでしょう。  なにも手伝わない明日香が家にいるだけでは困ってしまうけれど、制服のお金の心配もいらなくなります。今日子も勉強にももっと集中できるでしょう。  その分で新しいパートさんを雇えばいいだけの話です。  今日子の両親は実は今日子と一緒に弁当屋を営む時間が楽しみになっていたので本当はとてもさみしかったのですが、今日子の事を思うとその方が良いだろう。とその場で家族で話し合いました。  その日は一旦今日子を家に戻してもらい、翌月から、今日子は西園寺家に居を移すことになりました。  今日子は、家は隣り町なので、長い休みや、月に一度くらいは実家に顔を出して、両親が寂しくない様にお店を手伝う事を約束しました。  そうして、心から仲良くなった二人の「きょうこ」は居を同じくしてすごし、勉強も二人で力を合わせて学校に戻れるように努力することにしたのでした。        
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