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結婚
二人の「きょうこ」は大学を卒業して、半年ほどで結婚することになりました。
西園寺響子はもちろんマーシャルと。マーシャルは養子になることが決まっていました。
笹森今日子は中学時代から知っている竜崎隼人と。
笹森今日子は、大学4年生になると、申し出てくれた全員とお見合いをしました。
どの男性も素晴らしい人格の持ち主でした。
でも、一人を除いては、皆、西園寺家とのつながりが欲しくて今日子との婚姻を結びたいと思う方々でした。
両親はお金持ちの方達との縁談を今日子にも勧めました。弁当屋を継がなくてもお金があって、苦労をしない道を選んでほしかったのです。
でも、笹森今日子はあの中学生の、まだ自分がどろどろとしていた時期にもかかわらず、上級生の嘲笑からかばってくれた竜崎 隼人と改めてお見合いの席で会って、自分の気持ちの移り変わりも話したのでした。
笹森今日子に起きたことは知っていた隼人ではありましたが、今日子の中にそんなにドロドロした思いがあって、西園寺響子の写真をばらまいたのも笹森今日子だったことを知り、少々驚きはしました。
でも、そのことを正直に勇気を出して、当人である西園寺響子や、西園寺財閥の面々に話した事を聞きますと、
『あぁ、その笹森さんの勇気の代償に西園寺家はすべての事を許す気になったんだなぁ。どちらも素晴らしい気持ちの持ち主だ。』
と、医師ならではの人の心情をも思う気持ちで感じるのでした。
お互いにすべて納得の上で、笹森今日子と竜崎隼人との正式なお付き合いが始まりました。
今日子は大学4年を卒業したら、実家の店を継ぎたいのだと、隼人にも伝えていました。隼人は、自分は病院勤務になるけれど、実家は近いのだから好きにしてかまわないと言ってくれていました。
ただ、今日子の両親は、今日子が卒業する間際になると
「笹森弁当店はもう閉めるんだ。今日子と一緒に店をやりたかった気持ちはあるけどな。今日子は隼人君と一緒に自分の人生を歩きなさい。」
と、驚くようなことを今日子に告げました。
だって、つい最近まで、今日子にお店を閉めるなどと言っていなかったからなのです。
実は、西園寺家の料理長から、理子が笹森弁当店のクリームコロッケが好きなのと、ちょうど揚げ物担当のシェフが辞めてしまったので、色々な下ごしらえもできる今日子の父親を雇いたいと申し出があったのでした。
勿論、西園寺家の当主も賛成してくれて、話はとんとん拍子に決まっていたのでした。
笹森家の父親は、母親の明日実と、家に戻ったまま出て行かない姉の明日香が家でのんびりできるだけのお給料を頂けるのです。
長い間立ちっぱなしで弁当店を切り盛りして働いていた母親は大分前から膝や腰を痛めていたので、これを機会にのんびりと暮らすことに決めたのでした。
笹森今日子は、結婚後は竜崎 隼人と一緒に実家の近くに新居を建ててもらって隼人は、その家から自分が勤める西園寺記念病院まで通勤することが決まっていました。
隼人は医師なので夜勤などもあるはずです。
そこで、笹森今日子の部屋は、西園寺家にそのまま残され、隼人が夜勤の日などは西園寺家に遊びに来るようにと響子は勿論、理子にも強く請われたのでした。
医師にはあまりいい思い出がない二人の「きょうこ」ですけれど、嫌な思いをさせられたのは医師の息子たちであって実際の医師ではなかったのはまだ救いでした。
それに医師の人格に問題がなければ、自分たち家族の健康も任せることができるので、竜崎隼人が西園寺家お付きの内科医になることは皆の心を安心させる出来事になりました。
実際、お見合いの後からは、隼人はインターン先の西園寺記念病院で笹森家の母親の腰や膝を診てもらう様、整形外科に紹介してくれました。
勿論、事情を知っている病院側でも、明日実は大切な西園寺家に繋がっているので、下にも置かない扱いで治療をしてもらえたのでした。
卒業式が無事に終わりました。
それから半年たった9月に二組は結婚式を挙げました。
西園寺家のたっての希望もあって、二人の「きょうこ」は同じ日に同じ教会で結婚式を挙げることが決まりました。
それぞれに似合う純白のドレスを着て。
長身の西園寺響子とマーシャルのカップルは西園寺響が編んでくれた手編みのレースをつけたペチコートを素晴らしいシルクのドレスの下に着て華やかに。
やや小さめの花嫁の笹森今日子と日本人にしては長身の竜崎隼人は、最近では仲良くなってきている姉の明日香のセンスのある目で見付けてくれた今日子に似合う可愛らしいデザインのドレスを着て清楚に。
それは素晴らしい二組のカップルとして、まずは両家の家族だけで結婚式を挙げました。
その後、4家族とつながりのある人々が一堂に会して豪華な披露宴が3日間に分けて行われました。
その後、西園寺響子はマーシャルの母国へ理子も連れて新婚旅行に出かけ、理子の祖国でもある北欧の国々を勉強もかねて、理子にも見せて回りました。
勿論、新婚初夜は待ちに待ったマーシャルは処女膜の有る響子の為に優しく、破瓜をして、そして、十分に身体が熟していることを確認した後には激しく、愛し合いました。
笹森今日子は竜崎今日子になり、医師にはなったけれど、元々建築の好きな隼人の希望もあり、サグラダファミリアなどを見られる旅程を作り、楽しい思い出を作って日本に戻ってきました。
こちらも、今日子の事情を知っている隼人は、今日子が嫌な出来事を思い出さないように、優しく愛し合い、今日子は何度も愛し合ううちには、ハネムーンの間に頂点に達するという愛の有るS〇Xでの喜びの感覚を味わったのでした。
そして、翌年の6月。
二人の「きょうこ」はそろってハネムーンベイビーを出産しました。
勿論、西園寺記念病院の特別室においてです。
西園寺家に作られていた最初の響子の妊娠の為の診察室と手術室は牧正臣の拷問の後に取り壊され、今は中庭の一つとして、美しい庭園になっています。
最初の不幸な妊娠とは違い喜びの中の出産です。身体もすっかり準備ができています。
西園寺家専属の産婦人科医の手によって、まず、6月の3日には西園寺響子が、初めて正常分娩での出産を味わいました。
3100gの男の子でした。「西園寺・フランツ・響一」と名付けられました。
初めての正常分娩は大変な苦痛を伴いましたが、喜びも大きいものでした。
理子は10歳になっており、父親にも、母親にも似た、金髪をクルクルとさせて、深い碧色の目をした赤ちゃんの指をこわごわとそっと触るのでした。
そして、竜崎今日子も、西園寺家の特別室に入院して出産をするよう、皆に請われていたので、ありがたく使わせてもらう事にしました。
響子の2日後の6月5日に2800gの女の子を出産しました。「竜崎 隼美」と名付けられました。
こちらも初めての出産と言う事で、大変な思いをしましたが、顔見知りの産婦人科医の元、安心して出産に臨むことができたのでした。
病室も特別室を使い、二人は隣り合った部屋で夜はそれぞれに眠りましたし、産まれた赤ちゃんは夜は絞った初乳で病院のナースがみてくれました。
朝になると二人は部屋の間のドアを開けて、ベッドを寄せてもらい、二人の赤ちゃんは仲良くふたりの「きょうこ」の間に並んで眠るのでした。
理子はと言えば
「ねぇ、ママ?私はフランツと隼美ちゃんのお姉ちゃんよね。えぇ、もちろん知っているわよ。血のつながりがあるのはフランツよね。でも、きょんちゃんの赤ちゃんだって私の妹みたいなものでしょう?」
と、いっぺんににできた弟と妹を独占したい様子でした。
もう、小学校の性教育は早々に終わり、出産するには響子とマーシャルが何をしたのかも知っている理子なのです。
それでも、父親がいない自分の出自については自分からは聞いてはきません。響子が自分を産んだ年齢についても考えている筈です。
響子は、この機会に、理子に本当の事を話すことに決めました。
理子が傷つくことは分かっていますが、それでも、小学校の間に響子は自分と同じような罠に嵌ってほしくはなかったのです。
言葉を選んでですが、響子は、自分が「男の子」を見る目がなかったので、騙されて、小学校の時に自分の意志ではなく無理矢理に性交された事。そして、妊娠してしまったこと。でも、理子を産んだのは自分の意志であることをはっきりと伝えたのでした。
そして、理子の父親は、きょんちゃんにもひどいことをしたので刑務所に入り、今はもう社会に出てきてはいるけれど、それきりどこにいるのかは知らない事も話しました。
マーシャルも立ち会ってくれました。
理子は真剣に響子の話を聞いていました。
「ママ。話してくれてありがとう。」
理子は涙を流しながら響子の首に抱き着いてきました。
響子は理子を抱きしめながら
「理子の本当のパパはいないけれど、ママはマーシャルと結婚したんだから、もうマーシャルが理子のパパなのよ。」
と、言いました。
「理子は、そんな卑怯なことするパパなんていらないわ。それに、理子は見た目もきっと遺伝子上のパパよりもマーシャル寄りだから。マーシャルがパパでよかったわ。」
と、涙を拭きながらも可愛らしい笑顔を作りながら聡明に答えました。
生まれた頃こそ、黒っぽいくせ毛で鈴森真理とも似ていた理子でしたが、大きくなるにつれ、響子の髪に似て薄い茶色になり、最近では赤味がかった金色に見えるのでした。目の色もごく暗い碧で響子に似ていたのですが、ひいお祖父様の血が濃く出たようで明るい蒼い眼に変わってきていたのでした。
響子が理子に真実を話したと聞いて、竜崎今日子は理子を呼んで抱きしめました。
「ママには、きょんちゃんもひどいことをしたのよ。それでもママは許してくれたの。理子ちゃんのママは本当に勇気があって、優しいママなのよ。」
と、話しました。
自分がした事もおいおい理子には話そうと思ったのですが、それは響子が理子に話すべき時期を決めてからだと思いました。
二人の「きょうこ」は産後の肥立ちも良く、5日ほどで退院しました。
それからひと月ほどは西園寺家で竜崎今日子もすごし、竜崎隼人もその間は今日子が使っていた部屋にベッドを入れてもらって一緒にそこで暮らしました。
食事の用意や家事などで二人に負担がかからない様に西園寺家で気を使ってくれたのでした。
理子も、弟と妹がいっぺんにできたので大忙しです。
竜崎家にも真理さんと一緒に、頻繁に顔を出して、隼美と遊んだり、家ではフランツにマーシャルから習っている英語で話しかけたりしています。
そして、二人の弟と妹の姉として恥ずかしくない様に勉強にも力を入れ始めました。
それまでは理子はどこか、ぼんやりとしてあまり授業にも身が入らない所があったのです。
どうやら、本当の事を聞いた後、ママが大変な思いをした小学校時代の最期をやり直してあげようとすら見えるような勢いでした。
めきめきと成績を上げ、『大和学園』の中等部の入学式では、ママと同じように新入生の代表として挨拶をしました。
さて、二人の「きょうこ」の友情はこれからも続いて行きます。
子供もそれぞれに増えて行きますし、これからも楽しいことが沢山待っているでしょう。
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これで、私、笹森今日子、いえ、竜崎今日子のお話は終わります。
もう一人の響子も隣で微笑んでいます。
長いお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
【了】
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